クロモリディスクロードに未来はあるのか -【自転車図鑑】EXTAR PROTON 【57台目】

自転車図鑑

一年ぶりの自転車図鑑はグラベル第三帝国の悪友にして歴戦のランドヌール モリビトのフルオーダーディスクロード。

結論から言えば、彼はこの自転車を納車してから僅か1年半で軽量カーボンディスクロードを発注することになりました。

初代エクター、カーボンオーダーのDEANIMA UNBLENDEDに続く彼自身3台目となるオーダーメイドフレームへ下されたまさかの評価。

今回の自転車図鑑ではそんな彼の2代目エクタープロトンの紹介からクロモリディスクロードの実態に迫ってみたいと思います。

 

鉄のディスクロードに未来はあるのか

EXTAR PROTON ディスクロード

このブログの読者には今更ですが、大阪の伝説的フレームビルダー橋口製作所によるエクタープロトン。

当自転車図鑑5台目の登場。どれも抜群にかっこいいやつばっかりだからぜひ観て。
今回紹介するモリビト2号機は、1000km以上のブルベを走り切る彼の用途に合わせ、ファストロングライド用のディスクロードとして設計・アッセンブルされた一台です。

 

フレーム

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ピンクとも紫ともつかない淡く絶妙なグラデーションはアトリエ・キノピオのペイントによるもの。

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ダウンチューブは偏平形のギガエアロ。水平に並ぶシルバーのラインは遠目で締まる輪郭の良さにつながっている気がする。

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積載性向上のためダウンチューブ下にはダボ穴を設置。

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ヘッドチューブにはどんちゃん作の特別なエクタープロトンロゴ。

 

フォーク : WHISKY No.9

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肩下長はそのままにクラウンを薄くして太めのタイヤクリアランスを確保したWhiskyのカーボンフォーク。ただしあくまでロードフォークなので、グラベル等未舗装路の走行は想定されていない(ASTM 1)。

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実はレアな初期グラベル第三帝国ロゴステッカー。再販希望。

 

クランク : INGRID & PRAXIS

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イタリアのブランド、INGRIDのカッコいい削り出しのクランク。ペダルに隠れてるスクエアな先端が一番グッと来るとこなのに撮りそこねてしまった。値段を聞くのは野暮ってもんよ。

 

ホイール: シャマルカーボンDB タイヤ : Panaracer Agilist TLR 30c

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カーボンホイールに最新TLRタイヤのアッセンブル。30cのタイヤ幅で快適性を確保。

 

バッグ類

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TRIGLAVのフレームバッグはボトル位置までバッチリなサイズ感。

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一時期話題になったSauceのハンドルバーバッグ。この位置につくとライトを併用できるのがありがたい。

フレームの詳細はMovementの開封動画でモリビト本人が語ってるのでこちらも必見です。


鉄のディスクロードに未来はあるのか

3台目からが本番と言われるフレームオーダー、その乗車体験もさぞ素晴らしかろうと思っていたのですが、満を持して望んだ1000kmブルベを終えて彼が下した判決は…


かくして彼は彼はバチバチのカーボンレーサー、FELT FR を発注した。(なお未だ入荷の目処立たず)

 

鉄は、重い。

目を逸らしたくなる現実にこそ、掘って向き合う価値がある。

実際に彼と何度か走る中で話に出たのは、やはりクロモリの素材としての重さ。

ディスクロードでは従来のリムブレーキロードと比較してもブレーキ台座やスルーアクスル化に関わるリアエンド周りの部材、ディスクブレーキの制動力を受け止める剛性確保のための補強やステー間のブリッジなどが追加で必要になる。

カーボン繊維くらい成形に自由度があれば形状の工夫とエアロ性能で相殺できるかもしれないけれど、鉄パイプを組み合わせただけのクロモリフレームでは上述の部材が単純に上乗せされるので重量増は避けられない。

リムブレーキのロードであればクロモリとカーボンのフレーム重量差はおよそ1〜1.5kgほどで、この程度ならクロモリ完成車でもパーツを奢って8kg切りを実現できた。

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自分のエクタープロトン。鉄フォークでも重量は8.2kg。



一方これがディスクロードになると、カーボンフレームは各社開発が進みリムブレーキと遜色ない軽量化が実現されつつある一方で、クロモリではおよそ800g〜1kg前後の重量増となり、結果ディスクロードにおけるクロモリとカーボンの重量差は実に2kg近くにまで広がってしまう。


機械式油圧コンポだし、そもそも軽量化を目指した構成ではないだろうけれど、それにしてもロードバイクでこの重量はなかなか重い。


至言。

初めての一台としてクロモリのディスクロードに乗るなら、それほど違和感や不満は出ないかもしれないけれど、幸か不幸か彼は既に同じビルダーが作ったリムブレーキロードに乗り、さらにはオーダーカーボンフレームにまでまたがる厄介中の厄介。既に「知って」しまっているのだ。

 

違いが分かるが故の苦悩

これも話の中で出たモリビトの言葉なんだけど、グラベルロードやMTBなどの未舗装ライドを楽しむ自転車と違って、ロードバイクは反復動作の乗り物であるということ。

未舗装路では路面状況その他、機材以外の走行環境の変数が多く、それに応じて乗車姿勢やサドル高も変わるし、なんなら担ぎや押し歩きまで出てくるので、自転車の重さや走行性能がトータルの乗車体験に占める割合が相対的に低くなる。

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一方ある程度整った舗装路を走るロードバイク、特にブルベのような600km異常、失礼、以上のロングライドの場合は三日三晩一定のペースとポジションで淡々と走り続けることになる。その間乗り手は機材からのフィードバックを継続的に受けつづけ、ほんの僅かなストレスが長い時間をかけて徐々に堆積していってしまう。

ましてや同じビルダーのフルオーダーでより軽量なリムブレーキロードに長く乗っていた者であれば、否が応にも気づいてしまう「差」の蓄積は相当なものがあるだろう。

 

ディスク「ブレーキ」ロード

そもそもの話として、ディスクロードとはディスク「ブレーキ」機構を有したロードバイクである。

そしてブレーキとは言わずもがな止まるためのものであって、ペダルを漕いで前に進むことには一切寄与しない。

元来の素材特性や空力の追求など多大な研究開発費が注ぎ込まれ、カーボンディスクロードはひとまず従来のリムブレーキロードと重量・走行性能の面で肩を並べるところまで来た、(と、少なくともメーカーは謳っている)。同じように走るのであれば、より安全なブレーキが着いている方を選ぶのは合理的だし、筋も通る。

だがクロモリは違う。ディスクブレーキの搭載がもたらす大幅な重量増は確実に走行体験を悪化させ、速く・遠くへが信条のロードバイクの存在意義と真っ向から対立してしまう。

カーボンのようにエアロ形状をとるにも限界があるし、軽量化のため部材を減らせばディスクの制動力を受け止めきれない。レジェンド級ビルダーの腕をもってしても、その車重差を覆すほどのライドフィールの改善は難しいという現実を、モリビトの2代目エクタープロトンは教えてくれた。

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越えられなかった矛盾

ディスクブレーキの登場はカーボンロードとクロモリロードの性能差をリムブレーキ以上に乖離させてしまった。

カーボンのほうが軽く、空力もよく、あらゆる性能が高い。そんなことははじめから分かっている。それでも多くのサイクリストがクロモリを選んできたのは、より人間の直感に馴染んだ「鉄」という素材を駆って進む総合的な乗車体験がカーボンに勝っているからにほかならない。

しかしディスクブレーキの制動力に耐えるため、「進むため」ではなく「止まるため」というロードバイクの本質と矛盾した贅肉が付いてしまった(かつそれを削ぎ落とすことのできない)鉄のディスクロードは、あろうことか拠り所であったはずの直感的な乗車体験までをも犠牲にしてしまったのだ。

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1秒でも速く走りたい、雨に負けない制動力が欲しい、そんな「性能」が欲しいならカーボンディスクロードを買おう。

有史以来培われてきた人と鉄との親和性に根ざした上質な「体験」が欲しいならリムブレーキのクロモリロードを買おう。

速く・遠くへ・気持ちよく、「ロードバイク」という自転車の在り方において、鉄のディスクロードの未来は暗い。

おしまい

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