答えは空力だった- GIANT TCR ADVANCED PRO DISC インプレッション

自転車図鑑
GIANTのトータルレースバイクTCRに乗り換えて1年。それまで6年乗ったエンデュランスロードDEFYから代わって、通勤やロングライドでそこそこ乗りこみ感想も固まってきたのでここらで一度振り返っておく。

 

ざっくりまとめ
・速さの根源は空力。エアロがとにかくすごい。
・振動吸収性はかなり高いが、快適性はある意味低い。速すぎる。
・ワイヤールーティングがいまいち。Di2化は実質必須か。
GIANTにはPROPELという正真正銘のエアロロードもあるのになぜTCRでエアロ?など、疑問な点もあるかと思うけど、感じたことをそのまま書いてく。

「速さ」に微塵も興味がないまま10年以上自転車に乗ってきた人間が最新のレースバイクに乗ったらどうなるか、その顛末をご覧ください。


GIANT TCR ADVANCED PRO

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GIANTのTCRと言えばもはや説明不要、王道中の王道を測ってちょうどのど真ん中、まさに「THE ロードバイク」と呼ぶべき一台。

購入したのは2020年にモデルチェンジされた現行最新第9世代の2021年モデル TCR ADVANCED PRO 1。

2021 GIANT Bicycles | TCR ADVANCED PRO 1 DISC
RIDE LIFE. RIDE GIANT. わたしたちGIANTは、魅力的で幅広い製品ラインナップを通じて、世界中の人々を自転車というすばらしい冒険へと駆り立ててまいります。


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ホイール無しの状態で入手したため、購入からしばらくは手持ちのDT SWISSのローハイトアルミホイールを履かせていました。純正はリム高42mmのカーボンホイールが付属。

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ちなみに純正で付属するパワーメーター付きクランクは健康に悪いので到着後即売却した。いい金になった。

購入動機

一度くらいは「速く走るための自転車」に乗ってみたかった、というのが一番シンプルな購入動機だと思う。

とはいえレースやタイムアタックなんてやる気はこれっぽっちも無くて、主な用途は今まで通り通勤とロングライド。6年乗った同じGIANTのエンデュランスロードDEFYは、以前に詳しくレビューしたとおりロングライドに必要な性能を突き詰めたとてもいいバイクだったけど、前後QRのポストマウントだったりと、流石にそろそろ規格が古くなってきた。

【長期レビュー】GIANT DEFY ADVANCED PRO 2 初期エンデュランスディスクロードに6年乗ってみて



そのまま最新のDEFYに乗り換えようかとも思ったけど、ふとTCRのスペックを見るとタイヤクリアランスの上限が32cにまで広がっていることに気づく。ここまで太いタイヤが履けるなら多少フレームが硬くても最低限の快適性は確保できるだろうし、ポジションがアップライトすぎるDEFYに比べてTCRの方がハンドルを下げられるので自分の乗り方にもあってる。

あと友人のディスクロードオーダーの顛末を見て、やっぱりディスク買うならカーボンだな、と決心したのも大きな要因の一つ。

クロモリディスクロードに未来はあるのか -【自転車図鑑】EXTAR PROTON 【57台目】
満を持して望んだ3台目のオーダーフレームは納車わずか一年半で見限られてしまった。「性能」と「体験」の二兎を追う鉄のディスクロードが抱える本質的な矛盾とは。


というわけで、「体験」はリムブレーキのクロモリロードにまかせて、ディスクロードでは「性能」を楽しんでみることにした。

乗車インプレッション

細かいことは後回しで、ひとまず乗ってみた感想。

めちゃくちゃに速い。本当に誇張抜きで、分不相応なほどハチャメチャに速いのだ。

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ただ、最初は速さの理由がわからない。

DEFYと比べて違いが出るかと思っていたフレームの硬さや踏み心地は、言うて同じグレードのカーボンフレーム、劇的な差があるわけでも無い。(ジオメトリの違いによる漕ぎ味は大きく違うけど。後述。)

だけどペダルを踏み出してすぐ違和感。めっちゃ進む。進む…?いや、なにか違う気がする。硬いとか、加速が、とかそういうことじゃなくてなんかこう…なんだこれ…??

そのままグングン踏んでいって28〜30km/hくらいまでスルスルッとスピードが上がる。このあたりまでは、速いのは速いけどまだ「違和感」でギリ収められたんだけど、問題はその先。

脚が止まらない。否、止めどころがわからない。なに?まだ踏めって???ちょっとまって???待って待って待ってしんどいしんどい速い速いあああああああああ!!!!!


自分の脚力ではDEFYの場合30~32km/hあたりに明らかな「壁」があって、そこから先へ速度を上げようとすると二次曲線的に大きな入力を求められるんだけど、TCRはこの壁までがかなり遠い。30km/hを超えて35km/hに迫るまで、入力に対して直線的に出力が増えるような感覚。

それは決してプラシーボじゃなくて、実際に試走がてら近場のこれまで何度も走ってきた勝手知ったるコースをサイクリングして帰ってきたらSTRAVAがメダルだらけという有様。


子供が生まれる前、年間1万キロ近く走っていたころDEFYやエクターで出したタイムより、その3分の1程度しか走れてない今TCRに乗ったほうが速い。別に全力出した訳でもないのに。んなアホな…

認めよう。エアロは、すごい。

自転車始めて十余年、これまでエアロ性能なんてものを意識したことは一度もなかったし、なんなら見下してすらいた。

たかが自転車フレームの空力性能向上なんて神経過敏で潔癖気味なピチピチローディに向けたメーカーの戯言と思ってたし、風洞実験を重ねた末の最適なカムテール形状がどうとか、〇〇kmで××ワット低減に成功!とか、そんなんはFTPだのTSSだの数字と横文字喚きながらせっせとローラー回してるハムちゃんズが有難がってるだけで、おれは違ぇから、真のサイクリストはそんなことで一喜一憂しねえかんな、などと暗峠並みの斜に構え具合だった。

が、実際にTCRに乗り、峠を登って下って脚と身体に伝わる感触を正直に言葉にしてみたら、「エアロってすっげぇ…」というほか無い、見事な即落ち2コマが完成したのだった。


繰り返すがTCRの購入にあたってエアロ性能なんてものは本当に毛ほども意識していなかった。

だけど、あのスピードの伸び方は重量とか剛性とかジオメトリーとかそういう類で説明のつく速さじゃない。風の切り方がマジで違う。

で、帰って再度公式サイトでTCRの能書きを見てみると

Aerodynamics banner
2021 GIANT Bicycles | Showcase 2021 TCR
RIDE LIFE. RIDE GIANT. わたしたちGIANTは、魅力的で幅広い製品ラインナップを通じて、世界中の人々を自転車というすばらしい冒険へと駆り立ててまいります。


思いっきりエアロ推しとるやんけ

おそらく購入検討時にも流し見てただろうけど、エアロと名の付く文章は全て詐欺です、位の気持ちでいたからほんと欠片も読んでなかった。

このエアロ性能に具体的に言及してレビューしてたのがイギリスの有名な自転車YouTuber 、David氏のによるCanyon Ultimate との比較動画。




独自の風洞実験でも、全てのシチュエーションでTCRが優れていたとのこと。

この人の過去の動画を見たら、TCRをレビュー依頼受けて試乗したあとに自腹きって私用に買って、以降今日まで2年近く乗り続けてるみたいなのでかなり気に入ってるっぽい。

そして実は身近なところでも、このTCRの凄さを早くから訴え続けている知り合いがいた。自分が知る中で最もガチなトレーニー系ローディー、美味いスコーンまで出る快速特急でお馴染み鯖さんだ。

正直あとから「TCR エアロ」でTwitter検索かけるまで、全く気にも留めてなかった。ごめん、鯖さん。


ツイートにもある通り、彼のこれまでの愛車がこちら。

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GIANT PROPEL Advanced 1 (2016)



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FELT AR1



早くから空力性能の重要性を理解していた彼が乗り継いできたバチバチのエアロロード、しかも片方は一世代前とはいえ同じGIANTのエアロロードPROPELよりも空力が良いって、これもうわかんねぇな。

実際の走行感としてこの空力が一番良くわかるのがダウンヒル。

IMG 4643 ブレーキを離せばあっという間に落ちていくような凄まじい加速を維持したまま、レースバイク的ジオメトリ由来のエッジの効いた操舵性で連続コーナーを右に左にギュンギュン切り返す爽快感はほぼポルノ。

つい先日六甲山に行ったんだけど、あまりの気持ちよさに歯を食いしばって「イ゙―ッッッッヒヒヒヒヒ↑↑↑!!!」ってギランボみたいに叫びながら三ノ宮までダウンヒルしてたら表情筋が攣った。

あと大きく違いを感じるのはゆるーい登り坂。

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自分の場合6%越えてきたあたりからはTCRだろうがクロモリのエクターだろうがおんなじように辛いし劇的な違いは感じないんだけど、4%くらいまでの坂道は平地からスピードをほとんど落とさずにペダルを回せるようになった。無論相応のエネルギーは出力してるんだろうけど、少なくともしんどいと感じる閾値は越えないラインで高速走行を維持できる。

STRAVAで記録更新しまくってるのもこの緩斜度での高速走行が主な原因な気がする。

昨今のレースバイクが揃いも揃ってエアロエアロ言う理由がやっとわかった。そらエアロしか勝たんわこんなん。

快適性は、いいけど悪い

TCRで評価が難しいのがここ。

まず振動吸収性って面ではかなりハイレベル。普通に25c履かせて走っても、クロモリロードのエクターよりは明らかに身体への振動的な負担は少なかった。先に紹介したDavid氏のレビューの中でも頻繁に “supple : しなやか”って言葉がでてくるけど、まさにそんな感じ。それになんせ最大32cのタイヤクリアランスがあるので突き上げがきつかったらなんぼでも太いタイヤ入れれば良いんだから、この点に関しては一切心配はいらない。

じゃあ問題はなにかというと、「速すぎる」ということ。

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先述した「壁」の話にもつながるんだけど、30km/hを越えても踏めば踏むだけ気持ちよく速度が伸びるこの自転車は、逆に言えば常に目の前に人参がぶら下げられているようなもの。どれだけ自制しようとしても、より気持ち良い速度を目指して無意識のうちに出力が上がってしまう。結果、早晩脚が売り切れてヘロヘロという事態にこれまで何度も陥った。

じゃあ自分でセーブすればいいじゃん、という話なんだけど、それってほんとに「快適」か?

…というわけで、自転車の性能面では文句ないんだけど、乗り手のメンタルの快適性までは担保してくれない。そんな感じ。

この辺りのロングライド性能に関しては別にDEFYとTCRを詳しく比較して記事にしてみたい。

広いタイヤクリアランス

25cで乗っても不快な硬さはなかったけれど、それはそれとしてエアボリュームは正義なので32cのクリアランスは大変ありがたい。実際に32cのグラベルキングを履かせた状態でもしばらく乗ってみた。

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当然、こういう道を征く。

が、タイヤ幅の上限となるボトルネックはどこかというと、実はフレームやフォークではなくって

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Di2化した場合のフロントディレイラーの電源コード。接触まで目測2mm。

シートチューブだからしなることはほぼ無いし使用上問題はないけど、内幅19mmのリムに32cでこれだから、さらにワイドなリムだと当たるかも。

 

欠点:ワイヤールーティングがいけてない

TCR最大の欠点、それはシフトワイヤーの取り回し。

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ややこしいステムフル内装を避けてるのはいいんだけど、ダウンチューブ上部に侵入口があるため少しでも長さがダボつくと立ち漕ぎした時思いっきり膝に当たる。

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きっちり組めばおそらく大丈夫だと思うけど、それでもやはり見た目の野暮ったさはいかんともしがたい。

 

最新ULTEGRAで無線Di2化

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笑うくらい高性能な現代的ロードレーサー、せっかくだったらコンポも最先端行っとくか、ということで最新の12速Di2アルテグラに換装した。

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ハンドル周りも格段にスタイリッシュに。そもそも電動無線変速が基本のフレーム設計なのかもしれない。

Di2についてもまた別記事で。フロント変速速すぎ。

 

カーボンホイール導入

完成車には純正のカーボンホイールが付いているが、自分はホイール無しで手に入れたため後からCogsさんのオリジナルホイールを導入。

【ホイール】 Cogs[コグス] ability c DR38TL-DB 購入インプレ
東京のバイクショップCog's(コグス)によるオリジナルブランド ability c のミドルハイトカーボンディスクホイール。軽量かつコスパ抜群でホールレスリム採用と文句なしの構成。チューブレス化ならホールレスはマスト。


詳しいインプレはこっち。

当初履かせていたDT SWISSのPR1400からリムハイトは21mm→38mmに上がったけど、フレームの影響がでかすぎて正直ホイールでの空力の差はそれほど大きく感じなかった。

 

その他運用方

あとは細々と、

IMG 4628 ロングライド用にEliteのバンドでダウンチューブ下にボトルケージ増設したり

IMG 5585 第三帝国ロゴで差し押さえたり

IMG 5523 山で担いだり

IMG 5568 世紀末に備えたり

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おれのもとにやってきたからにはどんな道だろうが言い訳無しで突っ込んでいってもらう所存です。

 

あとがき

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ということで、TCRに1年乗ってみて感じた正直な感想は兎にも角にも「クソ速い」ということに尽きる。

正直この自転車のポテシャルの半分も出し切れていないと思うけど、ロングライドから突発的な山サイまで、フレームが傷だらけになるまで活躍してもらおう。

 

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