自分も発売当初から何本も使い、良くも悪くもいろんなことがあった思い入れの強いタイヤだ。
そんなグラベルキングがこの春リニューアル。聞けば金型からコンパウンドまで全てを刷新したようで、どうなのかなー気になるなーと思っていたら、よくわからないうちにあほみたいな経緯でパナレーサー公式から直々にプレゼントして頂いた(なんで?)。
その後数ヶ月、砂利道を何度も乗って感想が固まってきたのでここらで一度レビューしてみよう。
製品スペック
膨大なラインナップ
リニューアルにあたってはこのX1だけでなく、従来の無印・SK・SSもコンパウンドや金型から刷新された上に、そのそれぞれにノーマル、軽量のR、耐パンクの+という3つのケーシングタイプが展開されて目の回るほど豊富なラインナップになっている。ただ最新のX1についてはタイヤサイズは700cのみで、650B(27.5インチ)に対応したものは現段階では発売されていない。JARIでしっくり来ていた650B運用をD-309でも試してみたいので、登場に期待したいところ。(そしてまた種類が増える)
外観&重量
種類やサイズも指定させていただけたので、X1 45c ノーマルケーシングモデルをお願いした。せっかくなら最新のパターンを試してみたかったのと、700cでは40cの太さまでしか使ったことがなかったので、思い切って最大サイズを導入してみることに。
これまでお馴染みだった青いパッケージの折りたたみ梱包からBOX型になった新パッケージ。
重量は公称560gのところ実測568g/573gとちょい重め。
ちなみにX1のサイズとケーシングタイプ毎の重量比較はこんな感じ。
GravelKing X1 | 35mm | 40mm | 45mm |
---|---|---|---|
ノーマル | 420g | 480g | 560g |
R (軽量) | 390g | 460g | 510g |
+ (耐パンク) | 450g | 510g | 600g |
自分の用途ではノーマルがちょうどいい塩梅だけど、オンロード重視でいくならRも選択肢に入るかも。
チューブレス化について
爆発の歴史
旧型グラキン最大の欠点、それはチューブレス運用の不安定さ。もうかれこれ4年前のことだけど、その後もSNS上では頻繁にグラキン爆発事例が流れてきた。
今日もどこかで爆発してるグラベルキング
— TOMO (@CHARIandTOMO) February 11, 2023
そもそも旧グラキンはチューブレス化の難易度自体が飛び抜けて高かった。
これまでSK(32c/38c)、EXT38c(海外限定モデル)、無印(32c)と合わせて4セットほど使ってきたが、思い返せば楽にビードが上がったのは一番最初、まだTLC化する前の初期型を、これまたTL非対応のキシリウムディスク(2015)に突っ込んだ完全自己責任運用の一回だけ。
グラベルキングSK 32cとキシリウムプロディスク2015。両方ともチューブレス未対応でも無理やりやってみたけど、今のところすこぶる順調。シーラントは40mlくらいいれた。乗り心地良いし、何より軽い。
これから林道入ったら2barくらいまで下げてみる。 pic.twitter.com/qgthF8Qbcg
— やくも (@wartori621) October 14, 2017
その他は大抵部屋か風呂場か家の外壁にシーラントと罵詈雑言を撒き散らしていた気がする。
トドメとなったのは昨年TCRで使おうとした旧型無印の32c。もうなにをどうやってもビードが上がらず、白濁液まみれでご近所さんの冷たい目線を浴びながら軒先で発狂。
これまでの諸々も含めついに堪忍袋の緒が切れて、脱チューブレス化を決意。怒りに任せて握った筆で書きかけたのはこんな記事。
8割方書きあげて、今もブログの下書きに残っている。あと僅かでもおれの残業が少なければ世に放たれていたはずだった。
実は少し前から6年耐え忍んできたチューブレスレディ運用についに見切りをつけ、ロードだけでなくグラベルでもTPUチューブに乗り換えた。
— やくも (@wartori621) November 26, 2023
650B×47cに1.8bar程度でグラベル攻めて今のところノートラブル。
なによりライド前に毎度タイヤの状態を気にせずに済むのがデカい。シーラントは悪。 pic.twitter.com/ycocWeVTZf
それにちょうどこの頃グラベル用にもTPUを導入し、もうこれでええやん!となっていたところだったので、正直今回の一件がなければ、完全にチューブレスに見切りを付けていたと思う。
セットアップ
そんな背景を知ってか知らずか、パナレーサーから送られてきた箱にはタイヤの他にもう一つ、事前のお話にはなかった新型のシーラントSEAL SMART EXまでもが同梱されていた。これさえなければまだTPUぶっこんでお茶を濁すこともできたのに、もうやるしかないじゃないか。ということで、最後にもう一度、もう一度だけグラベルキングとパナレーサーを信じてみることにした。
で、意を決してチューブレス化セットアップをやってみたわけだけど、結論から言えば「完璧」。
始めは様子見で特に期待もせずシーラントを入れずにトライ。
合わせるホイールはDT SWISS PR1400DB。片側のビードを嵌め、バルブを差し込み、反対側のビードもリムの内側へ。ここまでは至って普通の手応え。
シーラントも無し、ブースターポンプも無しじゃさすがに無理だろうけどまあ一応やってみるかと、普通のフロアポンプでシュコシュコと空気を送ってみれば、のっけから僅かながらに手応えを感じる。まさかまさかと思いながらペースを上げて空気を送ると確かに手に感じる抵抗が高まっていく。はやる気持ちでポンピングを続けると、直後
「パンッ!!パンッ!!!!」
あまりにもあっけなく、ビードが上がった。
グラベルキング X1 47c、DT SWISS PR1400DBにシーラントなし、フロアポンプオンリーの状態で両輪とも一発でビード上がった。今のところ一見&一聴してわかる空気漏れはなし。
— やくも (@wartori621) March 18, 2024
とりあえずこのまま1日置いて様子を見てみる。 pic.twitter.com/IsT53gjDdM
結局両輪とも、シーラントもブースターも使わず、本当に何の苦労もなくチューブレス化作業が完了してしまった。
これまでパナレーサー以外のチューブレスタイヤも数多く使ってきたが、ここまで楽にビードが上がったタイヤは他にない。
ビード周りを再設計して確立されたというBeadLock機構、看板に偽りなしの素晴らしい性能だった。
エア保持力
上限の4気圧まで入れて一晩おいてみたところ、流石に片方は2気圧、もう一方はベコベコにまで空気が漏れたのでシーラントを注入。
この色合いの液体は今までブルーベリーヨーグルトしか見たことが無いので、あの甘い匂いがしてこないことに強烈な違和感を覚えてしまう脳のバグ。
以降3ヶ月使用してみて、エアの保持力はこれまで使ってきたチューブレスタイヤの中でもトップクラスに高い。
旧型のグラベルキングでは2気圧半ばでライドから帰れば、次の週末にはボヨンボヨンというのが当たり前(というかそれでもだいぶマシな方)だったけど、新型は2気圧から2週間放置しても1.8気圧ほどまでしか下がっていなかった。
リムとの相性はあるだろうけど、少なくともチューブレス化に関しては旧型とは比べ物にならない信頼性があることは間違いないと思う。あとは経年使用でどうなるか、これからのお楽しみだ。
実走インプレッション
新顔、DAVOS D-309にアッセンブル。45mmともなるとタイヤ径も上がり、全体的に迫力が増す。
本当はJARIでも使ってみたかったんだけど、カタログ上は許容範囲上限ちょうどだったはずの45cが思いっきりフレームに干渉することが発覚。タイヤクリアランスは事前にちゃんと測ろうな。
ちなみにリム内幅18mmのDT SWISS PR1400DBホイールに装着した状態で44.2mmだったので、最近のワイドリムではちょうど45mmくらいになるはず。
舗装路
舗装路の転がりが軽い!!というのが、この新X1最大の特徴だと思う。グラベルでの走行性能どうこうよりも、アプローチの舗装路のスムーズさがとにかくすごい。これまで使ってきた700cのグラベルタイヤは最大でも40cまでで、今回のX1のほうが断然太いのに、転がり抵抗の少なさはダントツで飛び抜けている。
正直最初X1のトレッドパターンを見たときはSKよりもさらに未舗装路寄りなタイヤなのかと思っていたけど、実際に乗ってみると印象はガラッと変わった。以前使っていたSKの38cよりも、45cのX1のほうが舗装路での転がりははっきり違いがわかるレベルで軽い。
太めなグラベルタイヤに特有の引っかかるようなスピード減衰が少なくペダリングがスムーズに繋がっていく感触で、D-309のロード性能の高さを差し引いても舗装路での巡航が速くて軽い。
パターンの妙もあるだろうけど、多分それだけではない。新しくなったコンパウンドのおかげかタイヤのしなやかさも確実にアップしていて、柔らかいのにロスがない不思議な感覚が味わえる。
ロードタイヤとしてもすごく好みの感触なので、TCRにも30cの無印Rシリーズあたりを導入してみたくなった。
未舗装路
次に本領のグラベルでの感触はどうかというと、正直に言えばあまりこれといった癖や尖った特徴は感じない。体重68kgでグラベルでの空気圧は2barを僅かに切るくらい。リム打ちのリスクを考えたらもう少し高めでも良いかもしれないけど、これくらいが好きやねん(そしていつかリムを曲げる)。
45cのエアボリュームだけで一定の快適性や面圧は担保されているため、トレッドやケーシングの印象が均されているかもしれないけれど、トレイルからがれた砂利道までおよそグラベルロードでつっこめるどんな路面でもそつなくこなせるだけの走破性はある。
これまでJARIで使っていたWTBのVentureはサイドノブが高めだったこともあり、比較すると砂利のコーナーを攻めた際の接地感は大きく異なる。Ventureは自転車を倒せばあるところからがっつりとサイドを効かせて切り込んでいける感触があったけど、X1はよりリニアに路面状況を感じながら走り抜けることができる。
ガガッとエッジを刺して攻めた走りができるのはVentureの方だけど、とはいえX1でもコーナーで突然グリップが抜けるようなことはない。
そもそも開発の経緯からターゲットはアンバウンドのような大陸のお上品なグラベルだそうで、未舗装路だけの性能で見れば凹凸もアップダウンもそこに住むものの内面を映したような京都の林道には少し荷が重いのかもしれない。
あと未舗装路でもコンパウンド由来であろうしなやかさはしっかり活きていて、乗り心地はかなり良い。特に上りでの接地感の粘りの良さというか、タイヤが路面に長く触れているような感覚があってとても走りやすい。
ひとつ欠点を上げるとするなら、縦のグリップが少し弱いところかな。急斜度の砂利道でトルクを掛けるとこちらのイメージよりも早くズリッと後輪が空回ってしまう場面が何度かあった。ただこれは舗装路での驚異的な転がりの軽さとトレードオフな部分だと思うので、あまり責めるのも酷だろう。
ちなみにこの縦グリップの弱さは以前使っていた旧型のSKにも感じていて、コンパウンドの違いもあってか緩斜面での粘りはX1でかなり改善されている印象がある。舗装路の転がりもX1がはるかに勝っている気がするし、となればSKの存在意義っていったい…
耐パンク性能
ガレた京都のグラベルを何の忖度もなく走り回っているけど、自分は今のところパンクはゼロで取り立てて弱い印象は無い。一方先日の京丹波では同じグラキンX1 45cを使用しているたつぽんがシーラントで塞ぎきれないレベルのサイドカットに見舞われた。
自分より体重が軽くテクニックもある彼でもパンクするときはするので、結局は運だ。日頃の行いを正していずれ来る裁きの時を待とう。
ちなみにこのときは同じくパナレーサーのチューブレス修理キットで復活。多少のマッチポンプ感は否めないが、実際これもめちゃくちゃ優秀。自分もツール缶に常備しているグラベルライドの必携品。
総評
(経緯はどうあれ)頂いたものにこんな言い方をするのもどうかと思うが、これまでのことがあったので少し見くびっていた。実際に使った新型は、想像以上にめちゃくちゃ良かった。舗装路での転がりの軽さがキャラとしては最も際立っているけれど、グラベルにおいても大きな不満はないし、運用面でもチューブレス化がこれほどまでに簡単なものになったことが時間に追われる家庭持ちサイクリストとしては何よりありがたい。
トータルの使用感としては文句なしに大満足なので引き続き使い続けていきたいし、オンロードでの感触が想像以上に良かったので、近々ロードのTCRにも軽量モデルを導入してみたい。
先代には散々苦労させられたけど、もう一度だけおまえのことを信じてみよう。
頼んだぞ、グラベルキング!!
おしまい
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