ついにこの自転車を紹介できる日が来た。
柳サイクル JAGER(イェーガー)
きゃんつー集いの主宰にして全地形的活動家、醍醐漫氏の得物。そう、「得物」という言葉がこれほどふさわしい自転車は他にない。
この自転車を正しく鑑賞するためには、まず彼のサイクリストとしての活動風景を知る必要がある。
乗り手 : 醍醐漫 DAIGO-GEAR@penassos
弊ブログの読者には今更だろうが、今この写真を見て頭に大きなハテナが浮かんでいる健全な諸兄のために少し解説しておこう。
世の中には自転車を担いで山に登ることを是とし、あまつさえそれを「サイクリング」と称して憚らない頑健な一派が存在する。「山岳サイクリング」と呼ばれるこの活動の歴史は古く、日本では山岳サイクリング研究会、所謂「山サイ研」がその筆頭集団として知られ、魑魅魍魎が跋扈する自転車界においても随一の魔境として多くのサイクリストから畏敬の念を集めている。
https://yamasaiken.com/about/
彼はそんな山サイ研の最年少メンバーの一人であり、日本の名だたる峠を自転車担いで踏破する姿は自分も含め多くのサイクリストが影響を受けている。
また山サイだけにとどまらず、日本縦断やオーストラリア横断、アイスランドグラベル旅等、世界を股にかけたキャンプツーリングにも挑む、筋金入りのサイクルツーリストでもある。
実は学生時代にオーストラリア横断しています。
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos)
日本縦断とかオーストラリア縦断もしましたが、あの経験は間違いなく財産になってます。 pic.twitter.com/MCoAjD46gV
November 13, 2017
アイスランド内陸部のグラベル区間、走りきりました。 pic.twitter.com/aSdIAIqN2p
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos)
August 15, 2019
柳サイクル JAGER (イェーガー)
上述した彼の全地形的行動を支える自転車、その有り様はもはや「乗り物」という概念に包括できるものではなく、彼自身の言葉を借りるなら『何かを攻略するための武器』であり、その意味ではむしろ探検家にとっての「手斧」や「鉈」に近い。
制作は千葉県は鎌ケ谷、柳サイクル。
乗り手の求めるサイクリングの形に合わせてロードやグラベルといった枠に収まらない唯一無二の自転車を数多く生み出してきた、個人的にも今ダントツで気になっているフレームビルダーだ。
このJAGERの制作過程はジオメトリからパイプ選定、溶接の過程までビルダー直々にその詳細を残してくださっているので是非一読して欲しい。めちゃくちゃ勉強になる。
JAGER 旅装概覧
このJAGERに定型は無い。目指す道に応じてその装いは如何様にも変わりうる。草案では20インチも候補にあったというのだから驚きだ。彼のブログにフレーム設計のねらい等も書かれているので、こちらも要チェック。
今回のきゃんつー集いの実装を見る前に、これまでの彼の旅装をいくつかおさらいしておこう。
ホイールサイズだけ見ても上は700cから下は24インチ(!)まで、バーサタイルの極みである。
フレーム&フォーク
フレーム
一見して目を引くのはシートチューブにかけて僅かにベンドされたトップチューブ。
山での担ぎの際に肩がフィットすることに加えて、車体の角度を安定させる役割もありそう。
ちょうど対角のダウンチューブにも養生が巻かれている。アウターケーブルが肩に当たらないようトップチューブの上部を通るところもポイント。
いわゆる山サイ研担ぎはとても強い担ぎの型ですが万能の型ではないので、重心の置き方や自転車の位置など、安全と行動力をバランス良く実現するには
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos)
、型のバリエーションを持ったほうがいいんすよね。 pic.twitter.com/QpXZfCntKp
February 24, 2023
肩に担ぐだけではなく、前三角に頭を通して両肩で支えることで両手をフリーにしたりと、状況に応じた様々な担ぎ方がある。
ちなみにフレームにはオフロード用バイクとしては薄めのパイプが使用されているらしい。剛性と軽量性のさじ加減、オーダーバイクの醍醐味だ。
いたるところに歴戦の証。この武器に、刃こぼれはない。
ヘッドチューブはフロント積載でのオフロードも安心な大径のテーパードコラム。
リアエンドはこちらも剛性重視でスルーアクスルを採用。ロゴも消え失せた7速のRDとの美しい時代錯誤だ。
フォーク : SURLY MIDNIGHT SPECIAL
この日はJAGER純正フォークではなく
ミッドナイト・スペシャルのフォークと700c履かせた柳サイクルのオーダー車 イェーガー。
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos)
ジオメトリは、比較的一般寄りになって、前後のエンド規格も現代グラベル準拠に。
ハンドル調整したらかなり具合よくなりそう。 pic.twitter.com/dwxh2udhSo
July 19, 2023
制作段階では100mmサスの投入も想定されていたそう。
パーツ構成
ドライブトレイン : SHIMANO XT FC-M785 / RD-6500 7S
様々なドライブトレインを地形や乗り方に合わせて使い分ける。時にシングル、またはディングル、今日は7速。サムシフター : SHIMANO DEORE XT SL-M700
発売は1982年、初代DEORE XTのサムシフター。
当時の22mmハンドル幅仕様ではクランプ径が合わないので別のアダプターをキメラしているが、これでも実は合ってない。合ってはないが、使えるのなら何も問題はない。
ホイール&タイヤ : MAVIC ALLROAD / SOMA CAZADERO 650B x 42mm
足回りは現代的なMAVIC オールロード。このSOMAのタイヤがかなり良いそうです。気になる。
フロント積載 : DAIGO-GEAR サブザック
今回のきゃんつー集いでのメイン装備、旧mont-bellロゴのベルトでハンドルに固定されているのは彼お手性のサブザック。
ハンドルに括ってるのがこのサブザックなんですが、結構出来が良く気に入ってます。
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos)
ナイロンでバカみたいに頑丈なメイン荷室+これまたしっかりしたメッシュポケット。
一応、ハンドルに括っても機能するポケットなので、定番化したい。 https://t.co/wb5LKDSAU4 pic.twitter.com/eKjNjkwcuh
September 8, 2023
新しいサブザック
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos)
500dで頑丈につくる。 pic.twitter.com/WSoiAA9dce
April 28, 2023
必要なギアがあれば自作する。
ガレージメーカー DAIGO-GEARとしても活動する彼の多彩な才能が発揮されている。モノ作れる人って本当に凄いよなぁ…
リア装備 : サイスポ付録ベルト
この上なくシンプルなリア積載は輪行袋とマットをサイスポ付録のストラップで固定する最小限の構成。これでいいなら、これでいい。
先代 : 柳サイクル HUNTER
実はこのJAGERは彼にとって2台目のオーダーバイク。1台目はというと、こちら。同じく柳サイクル HUNTER。現在も楓@kaede8264 さんの元でバリバリ現役。
所謂「パスハンター」と呼ばれるタイプの自転車で、マディフォックスやこのHUNTERでのサイクリングを経て、今のJAGERに至る。
この一台だけでも山程語るところはありそうだけど、長くなるので詳細は柳サイクルのブログを確認されたし。
あとがき
類まれなる強固な信念を持つ乗り手と、それを具現化する確かな腕を持ったビルダーから生まれた最強の狩人。
今まで数多くの自転車を見てきたけど、これほど乗り手の思想が凝縮・体現されたものはない。彼のサイクリングに対するある種狂信的なまでの熱量がそのまま二輪を纏ったような、凄まじい一台だった。
自分もいつかこんな一台が作れたらなあ…
また次の集いで。
追記: R.I.P
久しぶりに乗ったイェーガー、終わった。
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos) June 19, 2024
お疲れ様。 pic.twitter.com/fw0fy4EBp5
2024年6月19日、トップチューブ破断により天寿を全うされたそう。
イェーガー
— 醍醐漫 DAIGO-GEAR (@penassos) June 19, 2024
軽量パイプを使った山岳サイクリング車として2017年に組み上がり、山岳〜オフロードツーリングまで色々こなしました。
よかったなぁ。 pic.twitter.com/biRFUuvA9M
最高にかっこいい自転車だった。
おしまい
コメント