ルートプランニング
事の起こりは先週のおにゅう超えロングライド。終盤小浜から近江今津へ若狭街道を走りながら、そういえばここしばらく湖北の山を走ってないなーと、ぼんやりと考えていた。
後日、地図を眺めていろんなルートを妄想していると、ふと1箇所気になるところが。
三国山に連なる尾根筋の鞍部を目掛けて両側から伸びる分断された実線。それが造成途中なのか、単なる行き止まりなのかはわからないけれど、途切れた道に挟まれた標高の低い鞍部にかけて等高線の間隔が広いなだらかな谷になっており、この山を越えるならまさにここしかないという絶好の地形。
ここを突破できれば前後のグラベルも含めた楽しい一周ルートが引ける。こうなるといてもたってもいられない。
この時点で天気予報は「曇りのち雨」の傘マークだったが、雨男仲間の悪友に声をかけてみたところ
こんな頼もしい天気予報もないよな。
そして迎えた当日。
ありがとう、モリビト。
同行者:ファナティック遠藤
直前の雑な誘いにも関わらず、はるばる徳島から駆けつけてくれたのは住所不定のミスターフッ軽、ファナティック遠藤氏。
夏のきゃんつー集い以来の再会となるが、あの後に敢行された北海道での最高にかっこいいバックラフト旅の話を聞きながら林道までのアプローチをのんびりと走る。
名寄から幌延まで、天塩川を120km漕ぎ下った。
— ファナティック遠藤 (@fsc2a) August 20, 2024
パックラフトで長距離を漕行するのは初めてで色々な心配もあったが、今までのどの旅よりも原始に近いプリミティブな雰囲気にすっかり魅せられてしまい、3日間とは思えない充実感を得られた。 pic.twitter.com/J0bHzOVmDQ
日がな一日船を漕ぎ、行き着いた河岸に天幕を貼って夜を明かす、有史以来ありのままの川の流れを辿る旅。こんな素敵な旅の形があるなんて初めて知った。
この日はほかにもバックカントリーやトレイルランに挑戦予定のフルマラソンなど、自転車だけにとどまらないバイタリティ溢れる彼の話を聞けてこちらまで沸々とやる気が湧いてくる。
河内山林道
おしゃべりしながら走っているとあっという間に琵琶湖沿いから湖北の山へと分け入って舗装路に別れを告げる。最初の峠を登った時点でしっかり汗ばむ強めの日差し。
夜は5℃まで冷え込んでいたらしく、インナーにチャリ用ジオライン、長袖ジャージにウインドブレイカーを着込んで出発したけど、もうちょっと薄着でもよかったか。
燃える紅葉とはいかないまでも、紛うことなき秋の彩り。
二人で雑談を挟みながら淡々ときつい峠を登り、この日の最高地点813mの河内山からはじまる秋晴れの砂利下り。
落ち葉がゴロ岩を隠す連続コーナーの砂利道も27.5×2.25のタイヤ幅があれば余裕余裕。爽快に飛ばす。
今回の装備
ここで一息、今回の装備。ARAYA Muddy Fox MFB (改)
担ぎが確定しているため本当なら軽いカーボングラベルのDAVOSで来たいところだったが、軽いが故の脆さで割れて走り出せなきゃ元の木阿弥。DAVOSにくらべて3kgも重い黒鉄の狐の出番となった。
増設したフォークダボにボトルを2本と肩当て用のフレームバッグ。ハンドルバーバッグに飯をぶち込み残りの荷物は腰のHYNOWへ。
CANYON Grizl CF SL8
一方ファナさんはハイスペックなカーボングラベル。サスついてるのに泥狐より遥かに軽い。
腰にはおそろいのHYNOW。GRINDURO謹製のASS SAVERを車においてくる痛恨のミスでポルカドットを背負う羽目に。
地図にない道をゆく
序盤こそ快調なグラベルライドだったけど、今日のメインディッシュはここから。広い谷筋に沿った地形図上の実線の終わりに近づく頃、唐突に道が終わった。
曲がる川の外側が教科書に載せたいお手本のような侵食で削られて、わずかに残る縁を担ぎ、橋の落ちた川床を進む。
つまり此処から先は脚のあるものだけが進める領域。さっきまで乗せてもらった相棒を今度は自分に乗せる番だ。
さあいくぞ。
ルートファインディング
ここで地図のおさらいをしておこう。今いる場所は南東(左下)の軽車道(黒の実線)の終点。ここから中央の赤星、南北に伸びる稜線が低くなった鞍部(あんぶ)を越えて北東の道へと抜けたい。
鞍部へと続く谷は等高線の間隔が広くなだらかで、ざっくりピンク色のラインあたりをたどれば、上手くいけば登山道かあるいは誰かの踏み跡があるか、最悪何もなくてもこの程度の斜度なら強行突破もできるだろうと見込んでいた。
ではSTART。
まずは広くなだらかな谷筋をいけるところまで行く。踏み跡のようなものがあるような無いような。
序盤は特にルートを気にすることなく、方角だけ間違わないように木々の合間を抜けて進む。
時には斜面が急になり、やむなく谷底の小川を歩くことも。防水のトレッキングSPDシューズがここで活きた。
目指す鞍部の方角に向けて進むが、地図上では確認できない小さな谷筋や小川が並行して走っており、地図だけではどのラインを取るのが正解なのかの判断はつかない。
「こっちのほうなだらかやからいけるんちゃうか?」
「でもその先、かなり急で谷に降りられなさそうっすよ」
「ほなあかんかー」
二人で4つの目玉をフル動員して、あーでもないこーでもないと辿るべきラインを探す。船頭多くして船山に登るというが、今まさに山に登りたいんだからそれでいい。
小さな稜線の肩にあたる少しなだらかなところに、立派な杉の大木。幹の真ん中は地蔵か仏でも安置されていたかのように四角くり抜かれていた。
それにしても立派な木だ。画角に収まりきらない。
大樹の陰で一息ついて更に先へ。
踏み跡のようなものがあるような気がして辿ってみても、少し進めば不意にわからなくなり、あっちか?こっちか?と思ったことを半ばお互い独り言のように口に出しながら歩く。
しばらく歩いたころ、踏み跡らしきラインのそばに赤いリボンがポツポツと現れた。しめしめ、やはりここを狙って越えた先人がいたらしい。方角も目指す鞍部に向かっておりこれで一安心…
と思いきや、少し進めば次のリボンが見当たらない。そもそも正規の登山道では無いので踏み跡も極めて曖昧。自分たちがルートを外れたのか、そもそもリボンが正しい道しるべだったのかも判断がつかない。仮にリボンが続いていたとしても、結局は地図と方角と周囲の地形を見ながら、ふたりで自他に問答しながら信じる道を進むしかない。
一歩ずつ一歩ずつ標高を上げていくと、木々の合間から見える空が徐々に広くなり、ついに稜線をその目に捉えた。目指す鞍部はもうすぐそこだ。
谷が閉じていき、いよいよ稜線にむけての最後の担ぎ上げ。ここまでなるべく急登は避けながら歩いてきたけれど、最後の一発ここだけはなんとしてでも越えねばならない。
ぱっと見壁のように見える斜面も赤リボンが付いてるし、よく見れば踏み跡がある…ように見える。が、このレベルの斜度になるともはや他人の踏み跡がどうこうという問題ではない。
自転車を担いだ状態の自分の歩幅と筋力に合わせて、次の足の置き場、支えに持てる枝、自転車を通せる枝の間隔、それら全部を考えながら、確実に稜線までたどり着ける次の足の置き場を一歩ごとに探していく。
ファナさんは愛車を背負い込むスタイルで挑む。
実際この最後のとっつきの急登は、同じ場所から登り始めたにも関わらず稜線上のかなり離れた位置にたどり着いていた。
これが実際に辿った鞍部までのログ。等高線の緩い谷の右側を登るイメージをしていたが、右には地図上ではわからない別の谷筋があり、実際には急な左側を登る形となった。
こうしてようやく鞍部に到着。狙い通り広く平らな窪地になっており、ここで大休憩の昼飯とする。
時間は正午過ぎ。さっきまで青空も覗いていた空はいつの間にかどんよりと厚い雲に覆われ出した。どうやらどこぞで勤務中の雨男が休憩にでも入ったのだろう。
「モリビトー!働けー!!」「ちゃんと仕事しろー!!!」
地図にある道をゆく
腹ごしらえを終えたら、ここからは下り。といっても登りに比べれば大したことはない。谷を少し下れば先ほど来たような黒の実線、つまり造成された林道にすぐ合流できるはずだ。
鞍部から向こうは先程とは打って変わって道標となる赤リボンが密な感覚で連続しており、踏み跡もしっかりしていてあんしんできる。
あっという間に谷筋へ通りて、人為的に盛られたであろう斜面に行き当たる。間違いない、ここからが林道だ。
さあここからはグラベルで一気に下るぞ!と意気込んで登った斜面の先にあったのは、
いや、地図に間違いはない。ここは確かに道だ。正確には、かつて道だったところだ。
山の斜面に土を持って作られた平らな地面は確実に残存している。ただ、それがもう一度森に帰ったというだけのこと。
おそらく往時はそこそこ道幅も広い快適なダブルトラックの林道だったのだろう。それが今や見る影もなく、かつては路面と呼べたであろうところにはありとあらゆる堆積物が降り積もっている。
それだけならまだいい。あるところははるか昔に法面が崩れ、その崩落面からまた立派な木が根付いているような有り様だった。
「地図にある道を行く」ということ。 https://t.co/S9HEy50nKI pic.twitter.com/bzorVYSwBP
— やくも (@wartori621)
November 11, 2024
まあでも、これでもまだなんとかなる。担いで歩いてしまえばそれほどの苦労は無い。
最悪だったのはこいつだ。
あろうことか木が路面と水平に伸びてきている。
そういえばここは冬には豪雪地帯。春先まで降り積もる大量の雪が斜面の木々を徐々に押し倒し、空いた路面のスペースでそれでもなんとか光を求めて空を目指した結果がこれか。
このあたりが一番精神的にきつかった。800mmの長さを誇るRitchey Kyoteハンドルバーがラリアットのごとく絡みつき、にっちもさっちもいかない枝地獄。
てっきりここからは爽快にグラベルを下れるものだと思っていたのに、跨いで潜って乗り越えて終始悪態を付きながら僅かずつでも前に進む。
唐突に道が開けたかと思えば、あまりにも不気味な大量の赤リボン。写真で伝わるかどうかわからないけど、この場所、めちゃくちゃ怖かった。
山の斜面に人為的に作られた平面、それに覆いかぶさる森の不揃いに捩れた木々、そこに結ばれた大量の赤リボン。自然の中の歪な不自然というか、直感的に背筋が泡立つ「ヤバい」雰囲気を感じる。
ので、とりあえずあらん限りの大声で叫びながら突破。
「道の真ん中に土管を置くな!!」
結局ひとつ先の林道との分岐地点まで延々とこんな道が続き、一瞬で下れるかと思っていた僅か2kmもない距離を1時間半近く歩き通しようやく砂利道へとたどり着いた。
下りのログ。ちゃんと道があったんだけどなあ…おかしいなあ…
あとがき
こうして無事林道へと戻り、計画では少し遠回りしてさらにあと2つグラベルの峠を挟むところだったが、もう十分満足したのでショートカットして最後の峠をひとつだけ越え、マキノの平野へと下った。
山を降りたら速攻で温泉に駆け込み人権を回復。
風呂上がりにはジュースを飲みつつ今日のルートを振り返りながらチルアウト。併設の食堂で飯食って各々帰路に着いた。
やくもさんと湖北グラベルライドへ。最序盤こそ美しいメタセコイア並木に感嘆していたが、山に入ると途端に様相が怪しくなる。
— ファナティック遠藤 (@fsc2a)
挨拶代わりの路面崩壊に端を発し、道なき山を手探りで進み、地図上で道路に復帰したあとも果てしない藪漕ぎをする羽目になる濃密な1日だった。 pic.twitter.com/31kEQoKgHE
November 10, 2024
帰宅後ファナさんが撮ってくれた写真を見返すと、めちゃくちゃ楽しそうな自分が写ってた。
こんなわけのわからんサイクリングにいきなり誘って一緒に楽しんでくれる仲間がいるって本当にありがたいことだよなあ…
次はどこになるかな、またご一緒しましょう。おつかれさんでした!
おしまい
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