今こそオーダーフレームの宇宙(やみ)を語ろうー【自転車図鑑】柳サイクル Cozmo 【60台目】

自転車図鑑
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JAGERに続いて柳サイクルからの2台目は、「宇宙」を冠するその名も “Cozmo”!

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https://criticalcycling.com/2020/09/tachikawa-terrace/



オーナーはバイクパッキングの歴史的変遷や自転車を取り巻く社会のあり方への批評など、多方面にわたって造詣の深いサイクル賢者 kosuke miyata氏。

自転車の、サイクリングの魅力を言語化する難しさに正面から向き合ってやさしい言葉で語ってくれる宮田さんの文章は本当に素敵で、中でも自分が特に大好きなのが「サイクリング途中の眠り」についての記事。

出かけた先で眠るのが好きだ。もっと正確には、目覚めることが好きだ。絡み合い継ぎ足され続いてきた意識と思考の綱を、眠りによって断ち切り再スタートする。世界が新鮮さを取り戻し、感覚のチャンネルがいっせいに開かれる。あたかもそこで生まれ直したかのように、場所との関わりが一から始まる。

自転車野宿旅や仮眠を挟むロングライドで感じていた「あの」感動がこれほどはっきり言葉になるなんて、と、初めて読んだとき本当に感動した。

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そんな宮田さんが柳サイクルにフルオーダーした自転車、それがこの “Cozmo”だ。

 

「理想の一台」を作るのは誰か

「オーダーフレーム」といえば、自転車好きなら誰もがいつかはと憧れる自分のためだけの夢の一台。

ビルダーさんのところへ行って、あれこれ測ってオーダーして、あんなパーツやこんなパーツを使って組んで…と妄想しながらしばらく待てば自分の乗り方にピッタリあったサイコーな自転車が出来上がる…

…そう思っていた時期が自分にもありました。

いや、別にそれが間違いってわけじゃない。実際自分も数年前にロードバイクをオーダーしたし、出来上がった一台は文句なしに最高だった。
でもそれはあくまで自分にとって速く・遠くまで走ればいい「だけ」のロードバイクでの話。

それも自分の貧弱なイメージを形にしてくれたMovementのスタッフさんやビルダーの橋口さんの腕と経験があってこそのものだった。

EXTAR PROTONオーダーシート



いろんな自転車を観て、乗って、経験もそこそこ積んだから、次こそは自分のエゴと理想をぶち込んで、大好きなグラベルライドや野宿ツーリングに使える最高のATBを作るぞ!!

…と意気込んでから早2年弱、未だに先の見えない暗黒をさまよい続けてる自分がいる

想像を遥かに越える難しさがそこにはあった。

 

理想を形にするために

ここでフレームオーダーについての宮田さんの言葉を引用したい。

自転車のフルオーダーにおける最大のポイントは、求めているフィーリングの言語化だろう。事前の相談や既存モデルの試乗といった依頼者とビルダーの共同作業を経て「イメージ」が「言葉」となり(体格や性格、身体操作の癖なども汲み取られ)、それがジオメトリー、素材、工法、パーツ構成といった要素からなる「物」として具現化されるわけだ。…[中略]…より一般的な、ジオメトリーの値まで指定しないオーダーの場合、知識・センス・腕の揃ったビルダーに任せれば、言葉物の過程ではまず間違いは起きないはずだ。ただし依頼者のイメージが(ビルダーとのやりとりを経ても)上手く言語化されていなければ、言葉物の変換が正しくても出来上がった自転車に満足できない可能性がある。

https://criticalcycling.com/2023/04/yanagicycles-bespoke-frameset-6/

理想を言葉に。求めるフィーリングの言語化。これが何より難しい。

もちろん優れたビルダーならば乗り手の言外の希望までをも読み取って良いフレームを作り上げてくれるだろうが、そもそもの設計思想が「速く・遠くへ」くらい単純なロードバイクならまだしも、様々な路面・積載・装備・行程で運用されるツーリング車やATBなどのオールロード系バイクは考慮すべき変数が桁違いに多い。
たとえばチェーンステイ長一つとっても
「ギリギリまで短くしたい!」「でも太めのタイヤ履けるクリアランスは欲しいか(具体的な太さは?Max 47cくらい?というか700650bどっちでいく?コンパチ?)」「あんまり短いとリアパニアに踵当たるよな…(いっそもうフロント積載特化でいいか…)」「泥除けつけるならその分のマージンも考えなきゃ」「待てよ、トリプルクランク入れるなら当たらんようにしてもらわなあかんよなetc…
複雑に絡み合って衝突する諸々の要素を、走行感・操舵性・走破性・積載性・汎用性・あと見た目…それらを統合した自分の求める一台の自転車としての全体像に代入して、一番グッと来るベストな塩梅を探っていく。

苦しくも楽しくもあるこの作業は、本当に終わりがない。自分がここ数年囚われている暗黒の正体もこれだ。あるいは抜け出したくないだけかもしれないが。

ともかく、宮田さんはその暗黒を抜け出した。

しかもそれだけではない。自身の中で言語化を済ませ、それでいてまだ実体のない極めてアナログなイメージを、限りなく近似なデジタルの数値に置き換える行程までもを、自分の手で行うことに決めたのだ。

つまり、ジオメトリーの設計である。
それは宮田さんほどの卓抜した知恵と知識をもってしても決して容易なことではなかったはず。

氏の記録からは、数々の逡巡と取捨選択を経ながら柳サイクルのビルダーさんと二人三脚で細部を詰めてCozmoを創り上げていった過程、そして完成後もなお続く充実した試行錯誤の軌跡がうかがえる。

柳サイクルでクロモリフレームをオーダー #1:基本仕様を決める
かねてよりお世話になっている柳サイクルさんで、フレームセットをオーダーした。自転車を一から作ってもらうのは初め…


柳サイクルでクロモリフレームをオーダー #2:ジオメトリーを自分で考えてみる
今回の(初めての)フレーム製作オーダーにあたり、ジオメトリーは柳サイクルの飯泉さんに全てお任せするのではなく、…


柳サイクルでクロモリフレームをオーダー #3:いよいよマイ自転車「Cozmo」を組み上げる
10月28日、電車を乗り継いで鎌ケ谷の柳サイクルへ。オーダーしていたフレームセットを受け取るためだ。基本仕様の…


この一連の製作記(#6まであるよ)はオーダーフレームを検討するサイクリストなら金払ってでも読むべき本当に素晴らしい記事なので、絶対に読め。

P1180860 こうして無形な理想の最奥を見つめ、言語化・数値化の果てに柳サイクルのビルダーによって具現化された小宇宙 “Cozmo”

果たしてその出来はどうかというと…

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言葉を尽くして生み出したものが、まともな言葉にならないくらい素晴らしかったなら、それは紛れもない傑作だろう。

向き合い続けた理想が形となり、意のままに転がり進んだときの喜びのいかばかりかは、そこにたどり着いたものにしかわからない。いいなぁ…

 

Cozmo 観測

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ということでお待たせしました、Cozmoの細部を拝見していこう。

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ちなみにCozmoのベースとなったのは宮田さんのそれまでの愛車、MIYATA Le Mans スポルティーフ。およそ40年前の自転車とは思えない洗練された佇まいだ。

 

フレーム

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白のスプラッタ塗装は蒼い宇宙に煌めく星々のよう。

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なめらかなラグレスのフィレット溶接。

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使用するパイプは柳サイクルのビルダーさんが選定されたそう。

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パイプ一本の長さや角度、曲げ一つにも意味がある。

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リアエンドは142mmスルーアクスル。リプレーサブルハンガーで補修も容易だ。

ドライブトレイン

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56世代の105クランクにフロントシングルで小さめのチェーンリング合わせるツーリング仕様。

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10速のMTB用リアディレイラーをダイアコンペのレバーで引く。

フォーク : Seido MGV

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フォークはオーダー時の鉄フォークからカーボンフォークに変更されている。

この変更一つとっても、肩下長の増加によるBBハイトの増加やオフセットやトレイル量変更によるホイールフロップの影響を見越した仮説と実証があって学びが多い。

柳サイクルでクロモリフレームをオーダー #6:フォーク交換を経て一層しっくりきたCozmo
柳サイクルのオーダー自転車Cozmoに乗り始めて6ヶ月目に入った。自分の指定したCozmoのジオメトリーのイマ…


 

ブレーキ : TRP RRL SL x GROTAC EQUAL

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肉抜きの効いたTRPのレバーでもはや定番となったグロータックの紐式メカニカルディスクを引く。

小ぶりなブラケットと手に馴染むレバー形状でかなり握りやすかった。

 

積載

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軽量タープをマットで包むフロント積載スタイル。ちょうど見えないがフロントラックが下から支えている。

タープでの幕営の際にはCozmoが支柱となっていた。

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トライアングルバッグをパズルのようにして前三角を埋める。フォークサイドにダブルボトルで補給も問題なし。

 

 

あとがき

先のきゃんつー集い中、実は執筆活動の佳境にあった宮田さん。

この度ついに氏が編著の本が出版されるそうです。

世界に学ぶ自転車都市のつくりかた|学芸出版社
子どもも大人も使える便利でエコで健康的な移動手段、自転車。その利用を伸ばす環境整備が、車より人が中心の交通への回帰のため、持続可能な社会のために、世界で進められている。各地の「おのずと自転車が選ばれる」まちづくりを、ニーズ、デザイン、都市戦略から解説し、自転車×まちの未来を展望。設計カタログも収録。


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『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた:人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン』
宮田浩介 編著 小畑和香子・南村多津恵・早川洋平 著

 

ぶっちゃけ自分は街づくりとか社会的な自転車の位置づけとか、詳しいことはなーんもわからんけども、宮田さんの言葉がたくさんの人に届けば、それがいつかはおれのしあわせなサイクリングにもつながることだけは間違いないと思ってる。

だから速攻で予約したし、職場の「2023購入予定書籍.xls」にもこっそり一行足しといた。この週末には図書館行って、蔵書リクエストをかけておこう。

 

また次の集いで!

おしまい

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