【インプレ】NESTO Claus Pro -シクロ車のグラベルバイク化の可能性について

自転車図鑑
日本のホダカ自転車がコーダーブルームなどと並んで展開するブランドの一つ、NESTO。

ロードからMTBまでカバーする手広いラインナップの中から、Claus Proというシクロクロス用のモデルをサイクリングのために導入した。

CLAUS PRO FrameSet - NESTO


フレームセットの販売のみで昨今のフルカーボンバイクとしては非常に安く、実売で10万前後。カテゴリとしてはゴリゴリのシクロ競技用だが、自分の用途は未舗装路や担ぎを含む長距離サイクリング。

この記事では導入にあたって購入前に考えていたことと、数ヶ月乗ってみて感じたことについてまとめてみる。

が、その前にこのClaus Proを早くから導入しサイクリング車として様々なスタイルでしばきあげてこられたDUNさんの記録を、まずは読め。必ず読め。話はそれからだ。
読んだか?かっこええやろ?ほないくぞ。


日本の林道に適したグラベルバイクとは

ここ最近の大手メーカーのグラベルロードの変遷を見ていると、ヘッド角は緩く、BBは低く、ホイールベースは長くなり、以前は650B化で稼いでいたタイヤ幅は700cでも50mm以上のクリアランスが主流になるに従って外径も上がる一方と、より高速化と直進安定性を重視したモデルが多くなってきているように思う。

ヌルい平砂利が延々続くアンバウンドやニセコを走るための機材としては申し分ないのだろうが、日本本土に住む自分の行動範囲にあるのはゴロ岩ガレ砂利が跋扈する狭路曲線の林道が大半。メーカーカタログや販促動画のおしゃれなメリケンが駆ける広大な荒野とは似ても似つかない有様だ。

ここがカンザスにでも見えるってか??



そんな日本の砂利道で求められるのは低速でもハンドルを鋭く切り高いペダル位置でゴロ岩を避けつつ荒れた路面を縫って走れる機敏なステアリングと走破性の両立であり、そうした意味でも日本の山に最も適した自転車は往年のリジッドATB(All Terrain Bike)であると強く確信している。つまりはマディフォックスが原点にして頂点なのである。Q.E.D。

This is 世界一かっこいい自転車.



 

…が、もちろんこれは未舗装路に限った話で、走行距離の大半を占める舗装路のアプローチなどライド全体を俯瞰して考えたときには空身で13kgに迫る鉄の重さがネックになってくる。のんびり100kmくらいまでなら走れなくもないが、ある程度以上のペースでの未舗装を含むロングライドともなれば軽いカーボンフレームやドロップハンドルの力を借りたい。

つまり自分が求めているのはマディフォックスのようなリジッドATBを下敷きにしたロードバイクであり、その必須要素としては
  • 広いタイヤクリアランス(最低でも53mm≒2.1㌅以上)
  • 高めのBB位置(60mmを切るのが理想)
  • 緩すぎないヘッド角(71.5〜72°くらい)
といったところ。

だが、この条件を満たす自転車が昨今の「グラベルロード」という範疇ではとんと見つからない。特に難しいのがBBドロップの値でこれまで乗ってきたJARIやD-309でも67mmと、比較的浅い方ではあるが個人的な感覚ではまだもっと浅くていい。多少不安定でもいいからゴロ岩へのペダルヒットを防ぎ、腰高にヒラヒラと林道を駆けるスピード「感」を楽しみたいのだ。(客観的な速度は正直どうでもいい)

そこで候補に上がったのがシクロクロスだった。鋭角コーナーが連続する競技の特性上、ヘッド角やBB下がりの値は機動性重視で上述の条件を十分満たす。ただシクロクロスといえば33mmのタイヤ幅制限があるため50mm超もの太いタイヤは履けないものと思い込んでしまっていたが、調べてみればたとえばGIANTのTCXでも650B化すれば50mm以上のタイヤが履けたりと、モデルによっては案外懐が広いことがわかった。

Do it all bike! TCX with 27.5×2.0 MTB tires
byu/Greatmooze inbicycling

そしてシクロ車でもう一つネックだったのが積載性能の低さ。自分は山サイの担ぎ時やキャンツー装備でフォーク積載を多用するのだが、競技用車両にはそんな余計なものはもちろんついていない。

だが、これに関しては怪我の功名というか、志半ば(もとい半年)で割ったD-309のフォークを流用すれば良いのではと思いつく。TCXはコラムが独自企画のOVERDRIVE2なので難しいが、汎用規格のClaus Proなら問題なく付くし価格もお手頃。何よりリスペクトするDUNさんの素敵なサイクリングを見ていたのでポテンシャルは間違いない。決まりやん。

こうして全てのピースがハマり、晴れて導入の運びとなった。

スペック

導入したのは540サイズ。

前後12mmスルーアクスルにフラットマウント、独自規格等は無く最近のディスクロードとしては一般的な仕様。


重量は実測でフレーム1,306g、フォーク466g。BBやヘッドパーツ込みだから素はもうちょい軽い。

素材が比較的廉価なT-700のためかフルカーボンフレームとしては重めだが、D-309はフレーム実測1373gだったのでわずかに軽量化。D-309のほうが各部のダボ穴&鉄のネジが多い分重くなっていることを思えば、おそらく素材的にはあちらもT-700か同等品と見ていいだろう。

フォーク換装

冒頭の写真からもわかる通り、フォークを純正からD-309のものへと換装している。割れたのはフレームだけだからこいつは無事なんだよ。


ただしD-309は内装ステム専用設計のため、純正と違ってブレーキホースを肩から通す穴がないので、タイラップで外装の直留めにしている。整備性を考えても断然こちらが有利だ。サイクリング車、皆須く外装たるべし。

Claus Pro純正フォークにはダボ穴がないので3つ穴のこいつで積載性UP、という理由のほかに、ジオメトリ上も見逃せない利点がある。それがオフセット量の違い。

Claus Proは45mmに対してD-309が50mmということで、オフセット量が+5mm伸びて直進安定性が増す。   <追記>ここ完全にトレイルとオフセットごっちゃにして考えてた!お恥ずかしい。直進安定性が下がって操舵性があがる!

純正のシクロクロスバイクとしてのクイックなハンドリングは日本のガレた曲線林道でのアドバンテージにはなるが、自分はさらにホイールを650Bにサイズダウンして運用するのでさすがに操舵性がシビアになり過ぎる不安があった。それを緩和する狙いだ。<追記>逆!!もっとシビアにしとる!!!…が、逆に後述する下りの乗車インプレの筋は通るのでそのまま気にせずお読みください。

あとは650B化との相乗効果としてペダル(というか爪先)と前輪との距離を空けられるというメリットもある。特に急斜度のゴロ岩の多い登りでは低速でハンドルを鋭く切る場面が多く、自分の場合Claus Proのフロントセンター長では純正フォークに700×45cなんかを履かせるとかなり頻繁にタイヤが爪先をヒットする事が予想されたため、わずかでもこの幅を広げたかった。

結果、650B化と合わせて同タイヤ幅で+20mm近くのクリアランスを確保。わずかに見えてこの差はデカい。


タイヤクリアランス

Claus Proをマルチパーパスたらしめる最大の特徴は、その圧倒的なタイヤクリアランスの広さ。


シクロクロスのレギュレーションは33mmまでのはずだが、こいつはなんと27.5×2.25(約57mm)のMTBタイヤを履かせてもまだ少し余裕がある。これだけあれば「グラベル」的な用途では必要十分で、山サイ時のトレイルでも臆さず突っ込むことができる。

また、これだけのクリアランスをもちながらチェーンステー長が427mmとかなり短いことも特徴のひとつ。BBがスレッド式ではなく圧入のBB86のためステー集合部の横幅を取れた結果だろうか。リアセンターの短さは走行時のかかりの良さにも直結する部分だと思うので、圧入BBという点さえ許容できれば大きなメリットになる。

スルーアクスルについて

ひとつ要注意な点として、リアのスルーアクスルのネジ穴の位置がある。

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価格のことを考えると仕方ないのかもしれないけれど、できれば受けのネジは別体のエンドに刻むタイプに変更してほしい。

パーツアッセンブル


ホイールは長年愛用しているMAVICのCrossMax SL 27.5。フロントアクスル径15mmの歴としたMTBホイールなので、12mm仕様のD-309フォークでは内径変換のアダプターを噛ませたとしても外径が広すぎて受けの部分と干渉して使えなかったのだが、最近ようやく見つけた近所の頼りになるショップでアクスルの外縁をグラインダーで削り飛ばしてもらって無事使えるようになった。もちろん完全自己責任。

コンポもJARIの頃から変わらず11速フロントダブルのGRX。フレームにはFD台座がないためシマノの純正バンドで取り付けている。
最近のシクロクロスは1×が標準のようだが、ことおれのサイクリング用途においてフロントシングルに大したメリットがないことは過去に触れた通りだ。

ライドインプレッション

気色の異なるサイクリングに導入して感じたそれぞれの装備別インプレ

短距離山サイ探索仕様


27.5×2.25のMTBタイヤで、担ぎに備えてフレームは積載無し。個人的には一番気に入っているフォルム。

同じホイール・タイヤを履かせた状態のマディフォックスと比較すると重量約3kg減で走破性はほとんど変わらず走力は大幅アップ。洒落と浪漫と頑強さでは及ぶべくもないが、ペダリングを伴う場面での走行性能はほぼ上位互換といって差し支えないと思う。

特に登坂時のペダリングに対する反応の速さが小気味よく、操舵性も機敏なので選べるラインが増えてとても面白い。ギュイギュイ進める。


軽さは当然担ぎにも効く。

マディフォックス比でホイールベースは4cm以上短く、ハンドル幅もかなり狭いので倒木地獄での取り回しも容易。一方、前三角に頭を入れてフレームを両肩に乗せる所謂”山サイ研担ぎ”をするにはトップチューブとダウンチューブの間隔が広すぎるのと扁平型のチューブの鋭角面が接点になるため痛くて不向き。

長距離グラベル仕様

夜のグラベルを駆けて京都から小浜を目指した闇砂利ロング仕様。


タイヤをSOMA CAZADEROの50mmに変更。センタースリックかつ超軽量で舗装路の軽さ速さはピカイチ。合わせるのが内幅19mmのいにしえMTBホイールなので実測幅は46mmほどだったが、闇夜のガレたグラベルもノートラブルで走破。



トップチューブが弓なりのため、長いフレームバッグとの間に隙間ができてしまうが、やりようによってはTPUを仕込んだりもできるか…?

夜通し140km走ったが、花背峠やおにゅう峠など本格的なヒルクライムも軽快そのもの。自分が求めるグラベル「ロード」的な役割は十二分に担ってくれることを確信できた。

キャンプツーリング仕様


タイヤは前述のCAZADEROのままで、各種パッキングを施したキャンツー仕様。

円筒形のドライバッグをフォークに積む構成はJARIの頃からほとんど変わっていないが、フォークラックをZefalに変えたりダウンチューブ下のボトル増設に苦心したりと細かな調整を施した。



フォークを換装しているとはいえ、わずかに立ち気味なヘッド角や高め(53mm)のBB下がりが重装備環境でどう出るかと心配していたが、ハードなグラベルや連日獲得標高2000mを越える険しい四国の山岳コースでのステアリングや走行感には不満なく走破することができた。

ただやはりJARIにあったような「荷物を積んだほうがよく走る」というような感触ではなく、装備量に比例してちゃんと乗車感も重い。やはりフレームの適正としては極力軽装のほうがいいとは思う。

グラベルの下りは苦手

最新のグラベルロードと比較した時に最も大きなネガ要素となるのがグラベルダウンヒルにおける高速域での安定感の低さだと思う。ざっくり言えば、下りで飛ばそうとするとめちゃくちゃ疲れる。

泥に前輪取られて普通にコケた図



これは購入動機で重要視した部分のまるっきり裏返し。ヘッドが立っててホイールベースが短く低速域でキレのいいバイクってのはつまりスピード出したらじゃじゃ馬ってことで、がたつく路面の高速域では車体の制御に心身共にかなりのエネルギーを割く必要がある。

少し話は逸れるが、後輩に借りた最新のフルサスMTBで本格的なトレイルを走ったことがある。あれはすごかった。なんの技術も持たない自分が腹だけ括ってエイヤで突っ込んだら、抜重だのライン取りだの細かいことは全部自転車が引き受けて、なんだかよくわからないうちに壁のような山道を難なく下ることができた。

【MTB】Santacruz Megatowerで征く初めてのフルサスダウンヒル体験記



その点こいつは真逆で、全部自分でやらなきゃいけない。抜重もライン取りも、ちゃんとやらないとスピードに乗れないし、ちゃんとやれないおれは結果的に遅い。

もちろん自分もグラベルの下りをかっ飛ばすのは楽しいし大好きだが、でもその楽しさを冷静に因数分解してみると、絶対的な速度がどうかとか、タイムを縮めるとかそういった要素は皆無で、あくまでも自分がスピード「感」とスリルを感じられればそれでいいのだと気がついた。

砂利道下りの楽しさとはつまり、次の一瞬進むべきラインを脳の処理速度の限界ギリギリで選択し続ける瞬着博打の連鎖。レッドブル背負って崖で大ジャンプキメる奴らが一玉4000円の「沼」だとすれば、おれはそこらの1パチでやつらと同じだけのアドレナリンを捻り出してやるよ。

そして散る。


総評


納車からまだ数ヶ月ながら、当初の目論見通り様々なサイクリングでマルチに活躍してくれているNESTO Claus Pro。

苦手分野もあるが自分の求める砂利道サイクリングにマッチした素晴らしいポテンシャルを秘めた一台であり、そんな自転車が日本のメーカーからお手頃価格で手に入るのはとてもありがたい。

…というかホダカさん、これフォークだけダボ穴付きのものに変えてClaus AT(All Terrain)とかいって日本の未舗装サイクリングためのお手頃カーボンバイクとして売り出してみたらどうですかね…?欧米メーカーが考える的の外れた「グラベルロード」なんかより、よっぽど魅力的な自転車だと思うんだけどな。

 

さあ、これからいっぱい乗るぞ!

おしまい

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