雪の花脊峠サイクリング
大学サイクリングクラブ時代の後輩から誘われて、馴染みの京都へサイクリング。今回のメンバーは第48代(やくも)、第50代(TKD)、第57代(しみみー)、第62代(現役I君)と15年の時を隔てる4名。
懐かしの部室に集合して、現役生を先頭におなじみの市原ローソンへ向かう。
3月とは思えない寒さだが、日差しもあるしよいサイクリング日和だ。これから向かう北山連峰がそろそろ見えても良いはずだけどな。おかしいなあ。
いつものところに自転車を停め、買った軽食をモグモグしながらこれから向かう北に目をやる。明らかに暗い。あれ?なんか舞ってない?え?雪?気のせいじゃない??
これだけならまだなんとか気づかないふりもできたんだけど、向こうから交差点を横切って一台の車が駐車場に入ってきた。
…なるほどですね。
この有り様をみて戦意を喪失したTKDが「やめましょう!今日はもう帰りましょ!?」などと腑抜けたことを吐かしたが、「まあとりあえず行けるところまで行ってみようや!」と問答無用で出発。
まだ貴船口にすら差し掛からないうちから、舞う雪の密度がどんどん濃くなる。
いざ、花脊
鞍馬寺の前を華麗に走り抜け、DCC恒例花脊峠TTのスタート地点であるバスの展開場にたどり着く。先程までの牡丹雪がにわかに止み、青空から日が差している。
この晴天が冬型寒波に特有のさざ波のように押し寄せる雪雲前線のほんの僅かなインターバルであることは長年の雨(雪)男の経験から確信していたが、「これなら行けそうやん!!行けるとこまでいこいこ!!」と強引に先を目指す。
15年前、サイクリングクラブに入部間もない5月、なんの前情報も無いままに借り物の激重MTBで登らされた花脊峠。
「とにかくキツイ。」「〇〇先輩は途中で吐いた。」など、さんざん脅されながら自転車で登った初めての峠。
「トンネルを抜けたらラストスパートやからな、頑張れよ!」と、優しい顔で先輩が励ましてくれたから、必死の思い出ペダルを回していたのに
あらわれたのはこの看板。15年たった今も、この峠にトンネルはない。
あの混乱と絶望は、翌年自分からひとつ下の後輩に、その翌年には後輩からその下の後輩に、脈々と受け継がれていく。美しい伝統である。
以来何回、何十回、ともすれば百に迫る回数を、クラブの先輩後輩や、グラベル第三帝国の仲間達、あるいは独りのサイクリングで越えてきた。
路面がきれいに整えられたり、台風による倒木で大きく視界が開けたりと、様々変化はあるものの、峠までの道のりは斜度の緩急から道のうねりひとつに至るまで、しっかりと脳に刻み込まれている。
などと感慨にふけっていたら、百井別れまでやってきた。
しみみーと現役生のI君はいつの間にかはるか前に、TKDははるか後ろに消えた。
そしてこのあたりでついに、つかの間の前線インターバルが終わる。
堰を切ったように降り注ぐ雪が、たった今まで黒かった眼の前の道を白く染めていく。
俄然テンションが上がる。これでこそサイクリング!!
水飲み場を越え、展望スポットにやってきた頃には降雪量がピークに。ごらん、あれが京の都だよ。
先をゆく二人に送れること数分、花脊峠に到着。見慣れた電光板が−2℃を告げる。
そして待つこと数分、
TKD「だから止めようって言ったじゃないですか!!!」
雪は依然激しく降り続き、ほんの数分停めていただけのTCRがあっという間に雪化粧。
この天気の中、北側斜面の裏花脊にロードタイヤで下るのは流石に自殺行為なので、撤収!
ほんの数分前通った轍が消えかける路面はブレーキを少し握れば容易にタイヤが横滑る。
パウダースノーに埋もれるカーボンディスクロード4台。なかなか見れる絵面じゃない。
ギュッギュッっと小気味よく鳴る新雪の音。3月もそろそろ半ばやぞ??
少し下って積雪がマシになったあたりから恐る恐る乗り始める。
「ま゛あ゛゛゛あ゛アあ゛ああ゛!!!!!」
四者四様の汚い悲鳴。
体温で溶けた雪でずぶ濡れになった手足の先が、氷点下の気化熱で千切れんばかりに痛む。
途中何度も立ち止まり感覚のなくなった指先に遠心力で血を送りながら、なんとか下界に帰還した。
懐かしの部室へ
昼食を挟んで午後からは、現役時代さながらに部室でダラダラタイム。昔と比べて多少レイアウトは変わっているが、混沌としていながらもこの上なく快適な時空の歪む魔空間の趣は一切失われていない。
壁には旅の思い出が所狭しと。いいなあ…戻りたいなあ…
「YouTubeのドリームビルドとかあるけど、信用すんなよ。あんな綺麗に自転車組めるわけ無いねん。グリス塗ったその手、どこで拭いてんねん。そんな簡単にBBハマらんわ。」
「自転車組みなんてな、やってたら途中で嫌になって放置して、何日か経ってまたやるか…って手つけて、そうやって組んでいくもんやねん。」
「8速のアンプルピンある?」「いっぱいあるけどどれが8速かわからん」「7.1mmのやつやって」「あかん、これ9速用やわ。こっちは11速かな。」「ほなチャリ倉見てくるわ」
「…どこにあるんですか?」「知らんけど、このへんやろ」「ここって昔からこんな汚かったんですか…?」「綺麗好きはサイクリングクラブなんか入らへんからな。」「あ、あった。これ8速用ですか?」「わからん、測ろ」「あかん、これも9速や…」「エイリンで買ってきます!」
「◯◯のチャリまだ置いてんの??」「卒業してX年経ちますけど、今この空間にぼくのチャリ4台あるんですよ…」「ああ!サスがEpicon入れてたのにしょぼいAxonに代えられてる…!」「このアルミのやつ、△△が事故って軸ズレてるからタイヤ擦るんですよ」「あ、ほんまやここフレーム凹んでる」「あの隅のフレームおれが現役の頃からある気するな…??」
「これは一体…??」「ひどい。」「え?なにこれどうなってんの」「いやえっぐ…」
「これでも一時よりだいぶ減りましたよね。」「あれXTのスプロケついてない?」「なんか使えそうなんあったらもらっていこかな」「なんでフロアポンプ4つもあって使えるやつひとつだけやねん」
「だいぶ漫画増えたなあ」「卒業するとき置いていったおやすみぷんぷんまだある?」
「おれの青春」「やくもさんいつ来ても口開けっ放しでこれやってましたよね」
あとがき
突然押しかけて山に行き、アホなサイクリングして部室に帰り、アホなことだべりながらチャリを組む。十余年前のあの日にタイムスリップしたような、ほんとうに楽しいひとときだった。繋がりが、帰る場所があるって、本当にいいもんだなあ。
「え?あの独りOBランのやくもさんですか??」という哀しい名の通り方をしていたので、今年こそまたOBランで!
おしまい
コメント