グラベルサイクリングの途中、サイクリスト歴15年を超え、ついに念願の熊との邂逅を果たしたので、その顛末をまとめておく。
全国1万人の我が歌声ファンの皆さま、大変長らくお待たせしました。実践編です。
— やくも (@wartori621) May 26, 2024
ふと気がついた時には10m先の川縁に子グマ🐻
この子はゆっくり遠ざかっていったけど、近くにいるはずの親熊の姿が見えない(が、めっちゃ臭い)ので全力で歌う。選曲はもうこれしかないと思った。
詳細は帰宅後。 https://t.co/7TULz4d9h6 pic.twitter.com/KEJfpCO5uc
5月も末の日曜日、午後から急遽時間が空いたので車に自転車積み込んで縦貫道を45分、丹波の林道を掘りに行く。
なんでも後輩たちがグラベル耐久ランなるステキな企画をしてるみたいで、そういえばそのコース付近に地図では途切れてるけどもし繋がってたらかなり使い勝手の良さそうな道があったことを思い出し、その真偽を確かめに行くことにした。
得物は当然DAVOS D-309。軽さはそこまで感じないけど、踏んだ時の推進力はJARIの数段上をいく。
車をデポしてのどかな集落を進む。田んぼには用水路からジャバジャバと、どうやら田植えの直後のようだ。
そしてやってきた林道入り口。すでに日差しは傾いて道を照らしてはくれないが、15時から始まるグラベルってのもこれはこれで味がある。
徐々に谷筋が狭まってきたあたりでゲートがあるが、これは大丈夫なやつ。
「開けたら必ず閉めてください」と、手書きの炭治郎がこちらに手を振ってくれていたが、後のことを思えばここは親父さんの方が心強かった。
ゲートを越えてすぐ、谷幅はより一層狭まり、斜度は上がり、さあいよいよ標高を上げていこうかというところ。この日は半日だけの軽めのライドということもあり、熊鈴もなく気合もそこそこ。まだ里からいくらも来ていないので山に挑むという緊張感もなく、完全に油断していた。
気持ち良い木漏れ日の林道、ふとすぐ右手の川沿いからこちらにむかってなんだか真っ黒いかたまりがうご、黒い、あ?黒?ああクマ、熊クマあれクマ!!あああああqwせdrftgyふじこpl「;!!
希望的観測を吐きたい理性がシカやイノシシの可能性を模索するが、視覚がそれを許さない。見知ったそれらより、圧倒的に黒い。
第一印象はとにかく、黒い!!
よくよく見ればまだ子熊のようで、体長だけなら中型犬くらい。
絵に描いたような丸いお耳とつぶらな瞳が大変キュート。そういえば前日、妻待望のくまのプーさんのミュージカルを観に行てったんだけど、なるほど世界的な人気キャラになるのもわかる。この状況で見てもやっぱりかわいいわ。
ただ、敵として対峙する意識で観察すると、一気にその恐ろしさが際立ってくる。問題になるのはその太さ。体長こそ中型犬と言ったが、胴も手足も首回りも、そこらの柴犬を5匹束ねたよりもまだ太い。圧倒的な筋肉量の差を感じる。こっわ。
遭遇からここまで3秒ほどだろうか。
この時自分は右足を地面についているだけでまだサドルの上。カチッとビンディングの音を鳴らすのも憚られた。
子熊はこちらと一瞬目が合い、特に慌てるでもなく向きを変え斜面のほうにぽてぽてと歩いていく。
一瞬安堵しながら、パニックを避けるために数秒間だけ保留していた真の脅威に思いを巡らす。
親、どこ?
このサイズ、熊にしてはまだまだ子ども。どう考えても近くに親がいるはずで、
え?近くってどれくらい?子供が見えてる距離というなら、当然おれも見えてるはずで、
てことはこの状況、保護者の方からはどう見えてる?あれ???やばない???
そして今の今まで気づかなかったけど、くさい。子熊の残り香なのか、あるいはもう近くに、まさか後ろに、
やめよう、とにかくめちゃくちゃくさい。どんなにおいって、シンプルに強烈なクソの臭いだ。
子熊が背を向けた段階で思いっきり歌うか叫ぼうか、とも考えたが、無用な恫喝は草葉の陰からモンスターペアレントが見ている今は命取りだ。すべて文字通りだ。野生の世界に比喩の入り込む隙はない。せめてペアレンツでないことを祈る。
周囲を確認したいが、ちょっとずつ離れていく子熊からも目線を切れない。
ゆっくりしずかにビンディングを外し、自転車から降りる。子熊は反対側の斜面をゆっくり遠ざかっていく。そこそこの距離があいた。この距離があれば、多少動いても子熊への攻撃とはみなされないだろう。たぶん。
敵じゃないけど、おれはつよいぞ。ということを何とかして伝えねば、ということでリアブレーキを握り、ゆっくりと自転車を立てる。ちょうどこんな格好だ。
友情出演:モリビト
子熊は相変わらず数十m先の斜面をぽてぽてと登りあぐねている。
意を決してゆっくりと周囲を見回す。この時が一番怖かった。幸い何も見あたらないが、災いまだくさい。
自転車を立てたまま、あたりを見回しながら「hんーhんーhんー」と、徐々に大きくゆっくり声を出す。威嚇じゃないよ。だけど声もデカいよ。おれはつよいよ。というニュアンスを込めて。
何事もないので、徐々に歌に切り替えていく。
まだ子熊の黒さが頭にこびりついていたのか、最初に頭に浮かんだのはサイモン&ガーファンクルのThe Sound of Silence
https://youtu.be/NAEppFUWLfc?si=WutmWv6w9IAFW6Js
♪Hello darkness, my old friend. I’ve come to talk with you again…
あかん、選曲ミス。全然大声で歌えへん。歌詞もあかん、2行目まで考えてなかった。やめ。
子熊はようやく斜面を登り始めかなり遠くにいき、あほなこと考える余裕も出てきた。
つなぎにラーラー歌いながら背中のポケットのスマホとコンデジを取り出しシャッターを切る。
においもだいぶ薄れたが、まだくさい気もする。もうよくわからん。
ただ子熊とこれだけ離れれば、お子様への脅威とみなされることはないだろう。まだ林道のほんの入り口だったし、ここで引き返すつもりもなかったので、子熊が完全に見えなくなったあたりからさらに歌のボリュームを上げる。
どうせ行くんだ、中途半端が一番いけない。こっから先は全開だ。隣の谷まで響かせてやる。普段まともに人間やってたら、有意義な咆哮を吐く機会なんてそうそう巡り合えるもんじゃない。ここだ、ここしかない。全力で楽しもう。
てことで、以降しばらく、頭に浮かんだ歌と音を好き放題に叫び続けた。怖くないわけないし、心臓バクバクしてるけど、めっちゃくちゃ楽しかった。あれ以上のストレス発散はない。最高だった。
これでもおれをめがけて来るなら、もうしゃーない、と納得いくまで声を上げ、あ、でもこの先の分の喉も残しとかなあかんな、と幾分の冷静さも取り戻したところで、再出発。
その後の林道も最高だったけど、蛇足になるのであとは写真だけ。
https://x.com/wartori621/status/1794643986306785579?s=46&t=DY55MT4sy9ftbz3tjxORQA
結局夕暮れまで、砂利道を堪能できた。
最近いろいろ忙しくて自転車にも乗れず、よくないものがたまっていたけど、全部全部吐けた。最高のサイクリングだった。
ありがとう、くまさん。もう人前にはでるなよ。
妻とのLINE。最高の理解者ってやつ。
おしまい
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