毎年ながら慌ただしい年末年始。家の掃除やら実家での餅つきやら初詣やらをこなして、気がつけば連休最後の土日。
妻の帰省に合わせて一泊二日の出撃許可が降りたので、VAPAHで待望のシングルスピードツーリングを満喫するべく北陸へ向かった。
使用機材
今回は初のシングルスピードでの本格ツーリングってことで、最初に得物の話をしておこう。FUJI のシングルスピードグラベル、VAPAH。
650B化して太いタイヤを履かせたことでグラベルというよりむしろ往年のリジッドMTB然とした精悍さが増しており、おれの性癖に刺さる。
ギア比は前40、後17の約2.35。VAPAH導入のきっかけとなった醍醐漫が自身のフェザーで「なんでもできる」と言っていた値を真似させてもらった(厳密には彼のは42×18の2.33だけど)。
走行距離はルート設計段階で2日で180kmほど。道中急な上りや、おそらく雪道も多くなりそうでシングルスピードでは未知の領域だがさてどうなるか。
サンダーバード輪行
前日始発に備えて早寝するつもりがコース設計に悩んで就寝が遅くなり、家を出たのは6時過ぎ。最寄駅でシングルスピード初の輪行。ディレイラーがないからエンド金具不要、固定もRWSだから工具不要、ブレーキも紐式だからスペーサーも不要でめちゃくちゃ簡単。
この日実戦初投入のPEKOさんお手製輪行袋に放り込んであっという間にゴーレディ。
京都駅の窓口で敦賀までのサンダーバードを一枚。聞けば昨年から全席指定になっているそうで、窓口のお姉さんが輪行袋を見て最後部の座席を押さえてくれた。冬休みで混むかと思ったけど車内はガラガラ。
湖西の冬らしい比良山にかかる不穏な雪雲と対照的に晴れた琵琶湖を両側に眺めながら、あっという間に敦賀駅に到着。
が、何か様子がおかしい。
学生時代から一昨年のきゃんつー集いまで、日本海側のサイクリングのスタート地点として何度も訪れた馴染み深い鄙びた駅舎は今や跡形もなく、北陸新幹線のハブ駅に相応しい近代的な様相にアップデートされていた。
重い自転車を担ぎながら何度悪態をついたかわからないあのやけに長いホームが、こうしてみるとやけに懐かしく思えてくるから勝手なものである。
人の少ない東口で輪行解除を済ませ、いざ出発!
雪国の集落を抜けて
敦賀駅からは、もう何度目かもわからない私的ベストルート、旧国鉄北陸線隧道郡を辿る福井県道207号線へと向かう。が、いつもと同じ幹線道を辿るのもつまらないので、ショートカットで小さな峠を抜けてみることに。
敦賀駅の周囲はほとんど積雪もなかったが、少し山際にいけば日陰に雪が。そんな峠入口の集落にさしかかると、面白いものに出くわした。
コンクリート敷きの急な坂道から融雪用の噴水がニョロニョロ飛び出す雪国ならではの光景。集落から国道につながる唯一の道、確かにこの斜度に雪が積もればだれも外界へ出られないものな。
かつて国鉄の線路だった土手の上を走り出したあたりで雨のようなみぞれのようなものがボトボトと降り出した。
やれやれ、こんなことなら駅から着ておくべきだったと高架下でゴソゴソと雨具を着込む。
長年愛用しているモンベルのサイクルラインジャケット&パンツ。安心と信頼のGORE-TEX。
我が家のガス乾燥機 幹太様のおかげで購入から6年経っても未だに抜群の撥水性を維持している。ガス乾燥機、ええぞ。
旧北陸線隧道群
さあやってきたお馴染みの隧道群。まったくこの道はいつ来ても素晴らしい。そういや冬に来るのは初めてか。
隧道群最後の山中トンネルを抜けると周囲が真っ白に。
このまま進めば今庄の集落へと続くが、今日はたった今山腹をぶち抜いたこの山中峠を越えて日本海沿いへと下りたい。
ここまでは完璧に除雪されていたから、ひょっとして峠への道もこんな感じか…?
と淡い期待と肩透かしの入り混じった複雑な気持ちで峠道への入り口を覗けば…
やったぜちくしょー!!
山中峠雪中行軍
さあ始まるぞ、お待ちかねの雪中行軍。冬の北陸へ来るんだから、当然覚悟も準備もしてきたさ。
廃盤になったシマノの傑作ビンディングトレッキングシューズXM9。GORE-TEXの完全防水で、なにより雪の中でも足が冷えないのがいい。後継モデルの登場を願う。ただトレッキングシューズとはいえミドルカットなので、轍もないサラ雪を踏み歩くと足首側から雪が入ってきてしまうが、もちろんそこも対策済み。
以前買ったこのモンベルのゲイターをフレームバッグに…
ちゃんと…入れ…
入れて…
なかったわ/(^o^)\ナンテコッタイ
しかたがないので靴紐と上から被せるレインパンツをキツめに絞って極力雪の侵入を減らす。ガチの雪山なら凍傷待ったなしだろうけど、幸い気温自体は低くないので最悪濡れてもまあなんとかなるだろう。
てなわけで行軍開始。
除雪も融雪もされていない真っ白な雪道。楽勝で押し歩けたのは県道から見えてた最初の直線くらいで、すぐに車体にまとわりつく雪が後輪をスタックさせて車輪が回らなくなってきた。
隧道から峠までは距離にして約2km、標高差も150mほどしかないが、この2kmが遠い。そして楽しい。
足を止めて静けさに耳をすませば近くの斜面から動物の気配もする。まさかこの時期に熊なんか出ないとは思うけれど、用心に越したことはないので歌ったり叫んだり。
押し歩きに疲れたら今度は担ぐ。
フレームバッグの後ろ側を外して肩を通す。VAPAHは前三角が大きいのでボトルをつけたままでも担ぎやすいのがいい。
肩当て代わりには外したグローブや着替えなどを服の間に挟む。これだけでも負担がぜんぜん違う。写真では見やすいように表に出しているが、実際はインナーのジオラインと、その上のおたふくミドルとの間に入れ込んでおくほうがズレにくくて快適だ。
それにしても雪中行軍ってやつはままならない。もうだいぶ歩いた気がしたけど、振り返ればまださっきの分岐から1キロも進んでいない。
峠まで約2kmとはいったが、よく考えればこの雪がそこで終わる保証はない。峠の向こうは海側なので多少マシだろうという希望的観測で突き進んでいるけど、もし下りきるまでこの積雪が続くなら下手すりゃ数時間はかかるんじゃないか・・・?
峠に近づき、そんな不安も大きくなってきた頃
まだ真新しいハッキリとした2本の轍が現れた。どうやらここまで来たものの、雪の深さに尻尾を巻いた車が一台あったらしい。
片側二輪で往復4回踏みしめられた雪の轍は頂上付近で斜度が緩んで峠の向こうの下りまで、左右の雪壁にタイヤを擦りながらギリギリ乗れるいい塩梅。たのしいたのしい。
そうして峠を越え、日本海側へ下り出すとあっという間に積もる雪は消えてしまった。
急な坂を下り、一瞬国道に出たあとまた脇道へと入れば目に飛び込んできたのは日本海。
しおかぜライン
絶壁を飲み込む海との境目に僅かに迫り出す人の道。雪の中を押し担ぎどうにか峠を越えたのがほんの十数分前とは思えない。あまりに節操がなさすぎる北陸の冬。それがいい。
文字通りの波打ち際は、口にしょっぱい潮飛沫きが舞うクロモリ殺しの風が吹く。
しばらく走るとやけに大きなファミマがあったのでピットイン。
イートインコーナーだけでこの広さ。近隣唯一の商店として野菜などの生鮮品も多く、ほぼスーパーマーケットと化していた。
しばし海辺を走って
海辺に迫り出す山の谷間を縫う道はやはりそれなりに斜度がきつく、立ち漕ぎで体を左右にうねらせながら遡上していく。
海岸沿いから一本山を挟むと閑散とした村に出た。
もちろん家のことだろうが、そういえばスティーブン・キングの短編集に”The Mangler”って恐怖の洗濯脱水機の話があってな…
広域林道越前西部2号線
海と集落を隔てる細長い山脈の稜線をゆく道がおもしろそうな気配がしたのでいってみることに。ここが素晴らしかった。まずは標高4〜500m前後の稜線まで急な坂道を登る。300mを超えたあたりからは路面も雪に覆われた。
轍があるのでギリギリ乗れる。
はじめは雪の登坂にシングルスピードは無謀かと思っていたが、後輪への荷重を全身で感じながら身体を捩れば案外どうにかなることがわかった。47cのWTB VENTUREのグリップの強さにも助けられたか。
15時にしてすでに斜陽。迫る日没への焦燥も、雪中行軍の良いスパイスだ。
標高400mに近づくとさらに一段と積雪が増し、ここまで轍のラッセルを担ってくれていた車はここで諦めて引き返したようだ。
ここから先にわずかに残る跡は、おそらく昨晩の雪が積もる前のもの。今日この道を通ったのは、一頭のシカとおれひとり。
やあそれにしても素晴らしい光景だ。稜線のスカイラインを北上しながら、西に日の沈む日本海、東には遠く雪をいただく山々を望む。能郷白山?白山?冠山?どこだろう。
尾根筋を通るスカイラインは多少のアップダウンはありながらも斜度も控えめでシングルスピードでも軽快に走れる。依然標高は高いが稜線からわずかに海寄りのラインを進むためか、積雪もスピードを付けてゴリゴリ漕げばタイヤがスタックしない絶妙な塩梅。ゆっくり漕いでるとハンドルを取られてしまうので、多少の安全マージンは無視して思いっきり突っ込む!ひゃっほー!!最高!!
絶叫に備えろ。雨具の胸ポケットにiPhoneを突っ込んで撮ってるけど案外ちゃんと映るな。
景色のいいとこでは立ち止まり、風の音に耳を澄ませてぼーっと海を眺めたり。心身の全てが回復していく。
あまりにもいい道だったもんで長居しすぎてしまい、山を下る頃にはすっかり暗くなってしまった。
林道から下る別司峠がこの日走った唯一のグラベル区間。
VOLTを頼りに鯖江の街まで下り、1日目を終えた。
つづく
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