2003年の発売から20年以上経っても、いまだに「定番」「名機」と呼ばれ続ける高級ヘッドホンの定番中のど定番、Sennheiser HD650。
自分もかれこれ15年以上前に手に入れて長く使ってきた。引っ越しに伴う機材整理で手放したが、その時に書きかけていたレビューを発掘したのでその後に手に入れた機種との比較も兼ねて書き残してみる。
HD600番台の歴史と立ち位置
HD650は、ゼンハイザーの「6シリーズ」の中核を担うモデル。前モデルのHD600がモニター用途向けの正確な音作りだったのに対し、「よりリスニング向けのヘッドホン」として開発されたのがHD650。1997年に登場したHD600が主にクラシック系のスタジオやサウンドエンジニアに高い評価を受け、それをベースによりリスニング用途に低域の微細なディテールと中音域の豊かさを強化したらしい。
その後比較的最近になってHD660S、続いて後継のHD660SⅡが相次いで発売されたが、依然HD600/650いずれも販売は継続。海外の有名オーディオファイルによるHD600番台Tier表でもHD660sⅡなどを差し置いて、未だにトップはHD600だったりする。

最近はエコの皮を被ったコストカットの煽りを受けてペラいパッケージに代わったが、発売当初はしっかりとしたハードケースが付属していた。


この箱が放つ独特の堆肥を彷彿させる臭気が一部好事家の間では有名だったのだが、最近はとんとそんな話も聞かなくなったな。なんだったんだろう、あの匂い。
スペック
■ 型式:ダイナミック・オープン型(開放型)
■ 周波数特性:10 Hz ~ 41,000 Hz
■ インピーダンス:300 Ω
■ 感度(音圧レベル):103 dB / 1 Vrms
■ 最大入力 : 500 mW
■ 歪率(THD): 0.05%以下(1 kHz / 1 Vrms)
■ 接続端子 : 6.3mm 標準プラグ(付属アダプターで3.5mmにも対応)
着脱式OFCケーブル(約3m)
■ 質量 : 約260g(ケーブル除く)
300Ωとそこそこ鳴らしにくい部類で、ちゃんと鳴らすにはパワーが要る。自分は愛用のFOSTEX HP-A8で駆動していたが、最近の高性能なDAPだとこれくらいの機器でも鳴らせるんだろうか。
音質レビュー
発売以降あらゆるヘッドホンの比較対象として当て馬にされてきたHD650なので、持ってなくても音のイメージが出来上がってる人は多そう。

音の傾向をざっくり言うなら、エッジの効いた音の分解能よりも曲としてのまとまりを楽しめる心地よさを楽しめるヘッドホンで、全体的に音の重心は低く、スピード感もゆったりめ。モニター的な性能よりも、録音の空気感を含めた音空間全体を楽しむタイプ。ホールでのクラシックの録音とか、ライブ音源とか、空間描写がある曲には抜群に合う一方、出音の制動力は甘めなので残業もへったくれもない打ち込み系の曲ではHD650のいいところが全く発揮できないと思う。
音域別の傾向
高・中・低でわけるなら目立つのは中音、ボーカルラインが一番艶良く響く。ピアノ弾き語りの女性ボーカルなんかが合う。JONI MITCHEL の名盤、『Blue』を鳴らせばHD650の右に出るものはない。蕩ける。高音はそれほど刺さる感じもなく、角の取れた優しい音。音が出てないわけじゃないけどエレキギター等よりもアコギのほうが断然合う。HD650がロックに合わないってのはこの高音のエッジのなさが原因だと思う。
低音は量感はあるけど良くも悪くも制動がトロく、音が止まらないので最近のハイピッチなJ−popを聞くとどこかダルさを感じる。一方で程よくぼやけた輪郭が空間描写にはプラスに作用していて、楽器の反響が感じられるホールの録音なんかは抜群に上手い。クラシックに合うってのはこのあたりかな。

音場と分離感
音場はそこそこ広い。広いというか、鳴ってる音の響きに偏りがない。聴いていて引っかかりを感じないのでヘッドホンそのものの空間を意識させず、録音環境の空気感が見えやすい。
個々の音の分離感はそれなりで、楽器一つ一つに目を向けるより全体をひとかたまりで心地よく浴びたほうが気持ちが良い。
ジャンル適性
向いているのはジャズ、クラシック、アコースティック音楽。ボーカルも得意だけど、楽器隊は最小限でスローバラードや弾き語りなどの小編成でシンプルな楽曲が向いてる。
一方で、EDMやハードロックのような重低音やアタック感を重視するジャンルには向かない。特に最近のヘッドホンと比べると制動力やスピード感はかなりトロいので全体的に間延びする。米津玄師とかも相性悪そうだな。
まとめ
幸い中古市場でも値崩れしていないし、最近はよく知らないけどHD6xxとかいう同等性能のOEM(?)品まで出ているみたいなので、迷うくらいならいっぺん手に入れてみればいいと思う。
おしまい
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