自分がかつて所属しサイクリストとしてのいろはを学んだ同志社大学サイクリングクラブ(DCC)には、古くからの盟友があった。東の雄、早稲田大学サイクリングクラブ(WCC)である。
自転車にテントや飯盒を積み、主に野を宿として全国を巡る共通したサイクリングスタイルを持つWCCの文化は我々DCCと同じく、いやそれ以上に独特だ。
時に部内カップルや夫婦まで生まれる比較的(極めて比較的)奔放なDCCとは違い、WCCではその創立から今日に至るまで一貫して女人禁制を貫いている。春も盛りの野郎共が、学生生活の大半(あるいは全て)を費やすクラブ活動の場から自律的に女性を排するという悲壮な覚悟をもって臨むサイクリングは、ポリコレとコンプラのぬるま湯に浸されたフォトジェニックな「青春」などでは決して生み出せない「熱」をもって今日まで受け継がれている。
そんなWCCとDCCは、今から遡ること60年以上前のほぼ同時期に設立された。
設立当初から交流があり、特に年に一度の交歓合宿では互いに刺激的なツーリングの経験値や様々な伝統儀式に触れ、ともに互いの校歌を歌って長年親交を深めてきた。

1980年_第17回早同交歓会

2010年 同早交歓会
【活動紹介⑥:早同交歓合宿】
例年11月にある同志社サイクリングクラブ(DCC)との合同合宿。多種多様なサイクリストの集うDCCとの交流はとても刺激的で、自分の世界が広がること間違いなし!
リクリエーション的要素もあったり、毎年とても盛り上がる合宿です!
#春から早稲田 #早稲田サークル https://t.co/ylPaKI94b1— 早稲田大学サイクリングクラブ (@wcc_62nd) March 27, 2025
斯様にDCCとWCCの出身者はたとえ世代が離れていても同じルーツを共有している。
和歌山サイクリング終盤、熊野古道上で奇跡の遭遇を果たした103 @Tomy_viajar くんは、自分より一回り近く下のWCC部員であり、先の記事で彼を「義理の後輩」と呼んだのはそのためだ。

彼のもう一つの趣味である写真と、合わせて綴られる文章はどちらも彼の目を通した実直な魅力が込められており必読である。
そんな彼の得物は愛知のフレームビルダー Shin・服部製作所が手掛けるフルオーダーのオールロードバイク。

彼の理想の「オールロード」を体現する一台をじっくり見ていこう。
「リムブレーキの」オールロード
「オールロード」の定義は人によって分かれるが、大雑把には未舗装路も視野に入れたロードバイクという認識で間違いはないだろう。その軸足をどこにおくかでジオメトリもアッセンブルも変わってくるところだけど、103くんのShinは「荒れた舗装路から整ったグラベルまで」のサイクリングを想定した一台。

https://note.com/tomy_viajar/n/n8859599e737f
荒れた舗装がしばしば砂利に還る紀伊半島などにはまさにうってつけの一台なのだが、ここまでの写真でも目ざとい人はすでに気がついているかもしれない。そう、このオールロード、リムブレーキが採用されているのだ。
令和の時代にフルオーダーしたオールロードにリムブレーキを採用するからには、そこには必ず明確な意図があると考えていいだろう。

その理由についてはいつぞやおれが書いたややこしい記事(を読んだややこしいやつら)のせいで自身の紹介記事の隅っこに追いやられてしまっているが、めちゃくちゃいいこと書いてあるから必ず読め。
ざっくり言えば「フルオーダーの」オール「ロード」としての理想を実現するための必然的な選択であったということ。この自転車の軸足はあくまで「ロードバイク」にあり、それを鉄のオーダーフレームで実現する彼にとって最適な機構がリムブレーキだった。
自転車に限ったことじゃないけど、自分の欲望が時代の流れに逆行した時、それをちゃんと自覚して流されることなく言葉と形に具現化するってのは、そう簡単にできることじゃない。予測変換とLLMに抗うための知恵と経験と元気な身体、大事にしていかなきゃな。
フレーム

自身も大学サイクリングクラブ出身というルーツをもつShinのビルダー服部氏。
製作記でも語られているように、大学は違えど「サイクリングクラブ」という共通のルーツに依った思想・嗜好の共有はオーダー時の非言語領域での伝達精度を数段高めてくれることは間違いない。

ダウンチューブの大きなロゴはレーザーエッジ調のシルバーラインが。これはペイントを依頼したアトリエ・キノピオからの提案によるもので、文字が野暮ったくならず全体的に引き締まった印象を与えるのが狙いだそう。

kinopio謹製チェーンステーカバー
ジオメトリなどの細かな点については103くんの制作記が詳しいのでぜひそちらを読んでもらいたいが、中でも特にこだわりが凄いのが前足フォーク周り

まずヘッドチューブから。鉄フォークなら1インチでもそこそこ剛性は出るところだけど、これまで彼が乗り継いできた愛車のフィーリングからのフィードバックであえてのOS(オーバーサイズ)を選択。

そこに合わせるフォークが特殊で、コラムにはOSの外径を持ちながら適度な剛性感を生み出すために厚みを薄くした特殊なパイプが使用されています。厚みが薄すぎて内径が足りないせいで通常のOS用スターファングルナットが掛からないので、クリスキングの特殊なスターを採用して固定しているそう。
乗り手に合わせてパイプの厚みまで吟味して実現される操舵性と剛性感、まさにハンドメイドのフルオーダーならでは。

こだわりのフォークの上端は、こだわりのツァイスで締める。かっこいい。
パーツ構成
ブレーキ: Velo Orange Grand Cru long reach brake

ブレーキはVELO ORAGEのロングアーチキャリパー。ゴツさの割にエッジが立ったシャープな見た目がかっこいい。
タイヤ: Continental GRAND PRIX 5000 AS TR 32c

足元にはコンチのいいやつGP5000のエンデュランスモデル AS 32c。大事なとこには妥協しない強固な意思を感じる。
最近は普通のレーシングロードでも30mm超えが珍しくなくなってきたけど、実際これくらいあれば大体の道はなんとかなる。
レバー:GROWTAC EQUAL コントロールレバー

変速数やテコ比にとらわれない独自の機構をもったグロータックのシフトレバー。
少し触らせてもらったけど、ブラケットから操作できるフリクションレバーの操作感はかなり独特でクセが強い。荒れたグラベルでとっさの変速を求められるとなかなか厳しいが、オンロードメインのサイクリングでマニュアル操作を味わいながら楽しむのが良さそうだな。
ドライブトレイン: Sugino VP 44-27t / SHIMANO XTR RD-M952

無制限変速のグロータックレバーで操るのは往年のスギノのクランクと9速最初のXTR。

スギノのVPクランクと44-27のチェーンリング。どぎつい斜度にも対応するサイクリングレシオ。

ディレイラーのキャパさえあえば、リアメカ周りの組み合わせはほぼ自由なのがEQUALレバーの真骨頂。
それにしても9速は攻守において最強だよな。

隅々までぬかりなく。
ホイール: 手組み / DURA-ACE

ホイール組チョットワカル
(前後とも組めた)— 103 (@Tomy_viajar)
デュラエースのハブを奢った手組ホイールはなんと自作。
自分も大学時代にワンセット組んだことあるけど、もうすっかりやりかたも忘れてしまったな…


ペダル: HOPE UNION RC

ペダルはあまり見かけないHOPEのビンディングペダル。使用感含めてかなりいい感じらしい。形状からシマノのSPD互換かと思いきや、クリートは独自規格なので注意。
マウント: NITTO ランプホルダー


フォークの左右からキャリパーを挟むようにNITTOのランプホルダーでVOLTを配置。フロントバッグとも干渉しないし左右対称でスタイリッシュ。
サイコン: GARMIN eTrex 30

信頼のeTrex、電源ボタンの陥没は歴戦の証。ちなみに自分も過去に同じことになって後継機に買い替えた。
一応まだ内蔵ほじくれば電源着くよ()
フレームバッグ: asobitogear Cubicle

日本のガレージブランド『アソビトギア』が手掛けるフルオーダーのフレームバッグ、Cubicle。
荷室の中を2枚のパーテーションと面ファスナーで自由に区分けすることができて中のものが暴れないというとてもクレバーな構造。
これはめちゃくちゃ便利そうなので、次のフレームバッグ筆頭候補。
フロントバッグ: ROCKGEIST Nigel Handlebar Bag
こちらも103くんイチオシ、アメリカ発ガレージメーカーのハンドルバーバッグ。

ハンドルバーとヘッドチューブにストラップで固定し、開閉はお手軽なドローコード。

容量は4.5Lで中には大事なカメラがすっぽり。
ポリウレタンコーティングされた生地で防水性が高く、雨でも濡れる心配はなし。
あとがき
それにしても103くん、日頃の文章や写真からもうかがえる通りの実に聡明快活な青年だった。
年の離れた初対面の厄介な先輩のあほな話を優しく笑って聞いてくれるもんだからついつい調子に乗って喋りすぎた気もするが、懐かしいサイクリングクラブの思い出からこんなとには書けない野望のことまでいろんなことを喋った一夜は本当に楽しい時間でした。


103くんに撮ってもらったおれのNESTO Claus PRO。そんな凛々しい顔できたんかワレ…

翌朝、串本を目指す彼の背中を見送る。またどこかで!!
おしまい
…あとがきのあとがき
前回の記事から続き書く言うて気がついたら半年経ってた、ほんまにごめん。
ちゃうねん、ほとんど書き上げて103くんのnoteが上がる頃に合わせて投稿しよかとか思ってたら、いつの間にかTwitterすら見んようになってしもててん。誠に申し訳ない。
てなわけで、103くんサイドのあの日の記録はこちら。なんだか褒めてもらって誠に面映ゆいばかり。
半年放置したお詫びじゃないけど、ブログもいろいろ進化させたので、またぼちぼち書いていくつもりです。のんびりおまちください。
スペック
| 車名 | Shin・服部製作所 オールロード |
|---|---|
| ライダー | 103 |
| 車種 | ロード |
| フレーム素材 | クロモリ |
| フレーム | Shin・服部製作所 フルオーダー(ペイント:アトリエ・キノピオ) |
| フォーク | クロモリ(OSコラム・薄肉パイプ、CHRIS KING スターナット) |
| 変速 | GROWTAC EQUAL コントロールレバー(フリクション)/RD SHIMANO XTR RD-M952(9速) |
| クランク・ギア | SUGINO VP 44-27t |
| ブレーキ | VELO ORANGE Grand Cru ロングリーチ(リムブレーキ) |
| ホイール | 手組み(DURA-ACE ハブ) |
| タイヤ | Continental GRAND PRIX 5000 AS TR 32c |
| ペダル | HOPE UNION RC |
| バッグ・積載 | asobitogear Cubicle(フレームバッグ)、ROCKGEIST Nigel Handlebar Bag(フロント) |
| その他 | NITTO ランプホルダー、GARMIN eTrex 30 |






















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