雨のエサヌカ線と神威岬と廃モーテル。二日目の記録。


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目が覚めた。まだ眠い。ゴロリと上を向く。知らない天井と、知ってる自転車だ。JARIはいいぞ(寝言)

夜に辿り着いた荒屋なので、細かい部分は朝になるまでわからない。案の定天井にはもし気付いていれば間借りを躊躇するような毒々しい色した巨大な蜘蛛が巣を張っていたけど、今となっては過ぎたことだ。一晩お邪魔しました。

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もそもそとパンを口に放り込みながら出発準備。外の天気は寝る前と変わらず、雨というか霧というか、とにかく走れば濡れる程度の天気だ。ちくしょうめ。

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昨日のうちに大方走っていたので、すぐに宗谷岬に到着。ほとんど感慨はないけどここまで来て無視するのもアレなのでパシャり。

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毎年大晦日にTLで見かける構図。レンズに付いた雨粒に全てを語らせておく。

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岬からは南東へ、オホーツク海と名を変えた海が変わらず鈍色の白波を立てている。

猿払までの海岸線は水産加工会社の工場が点在していて、その隣には帆立の貝殻が大きな山を作り、海辺でおなじみの死臭を漂わせている。空模様とも相まっていよいよ終末じみてきた。

 

R238が海沿いを離れるあたりからこの日のお目当て、 猿払村道エサヌカ線が始まる。

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空が青けりゃちったぁ絵にもなったろうさ


聞けば12km以上もの一直線だそうで。
とはいえ丸い地球で人が見渡せる範囲はせいぜい5km。「あの地平線の向こうまで」は自転車で行けば15分という不都合な真実。

 

それより本当に観たいのは、遠くの地平より眼前の砂利道。

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舗装路から更に海沿いへ逸れると、お目当てのグラベルが始まる。

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第三帝国基準で言えば舗装路を超えて動く歩道レベルのイージーなダブルトラックがどこまでも続く。
風が強い。動物の気配もする。まさか海沿いに熊は出ない…よな?え?出るの?

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オホーツクの水平線をバックにエゾシカと並走。海沿いの鹿ってのも新鮮だ。

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北海道の水たまりは底なしっていつかのツイートで見たことあるな?

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空が青けりゃ(ry

 

舗装路に戻る。また霧が出てきた。遠くに見えてた風車が、近づくにつれてどんどん輪郭がぼやけてくる。意味がわからない。

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BGM : Dead Can Dance “The Host of Seraphim"

 
完全にコレ

 

霧とも雨ともつかないモヤの中まっ平らな道をひた走ると、視界の先になにか異様な黒い影が見えた。

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雨の日にしか出会えない、限られた視界を埋める威容に息を呑む。

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風の音、波の音、かっぱに当たる水滴の音。全部に耳を傾けながらぼーっとする。至福。自分の場合こういう時は大抵口から「nぬああhぁh…」とか変な音が漏れる。たぶん身体の中の良くないものを吐いてる。旅で何かを得る人も多いみたいだけど、自分は断然「吐く」タイプです。

 

またしばらく海岸線をゆく。少し登ったところに面白そうなものが。

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ここがワイキキビーチにでも見えるってか?


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霧の中、静かな草原の丘に建つ廃れた愛の巣。和む。

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よき。

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扉引っ張ったら開いた。

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カビ臭いけど少なくとも腐敗臭はしないから、何がとは言わないけど、大丈夫だろう。
久しぶりに雨をしのげたので大休憩。割れた黄色いガラス窓から濁った空とぶら下がる壁板を眺めながらおにぎりむしゃむしゃパンもぐもぐ。心が落ち着くとても優雅な時間だ。気がつけば1時間ほどここでのんびりしていた。


去り際になって風呂場にテープでぐるぐる巻きにされた冷蔵庫を見つけた。休憩後で良かったよ、ムードが台無しだ。どこのどなたか存じませんが、お邪魔しましたスタコラサッサ。

 


結局この日は朝から晩までずーっと雨。心を無にしてダラダラと走り続ける。それもまた悪くない。良いとは言ってない。

夜になって眠くなってきた頃、丁度いいバス停を見つけた。雨の日にテントなんか貼れるかよめんどくさい。

 

 

コンクリート建てのバス停に大好きなBon Iverの “Woods” を響かせながら寝袋にくるまって微睡む。最高だ。完璧だ。自分ひとりだけの欠けたることなく満ち足りた世界が完成されている。

昔はこういう瞬間のために銃が欲しいと思ってたけど、いつの間にかスマホの待ち受けには妻と娘が笑ってる。どこか鏡の向こうの世界のようでもあり、同時に腹の底が暖かくもあり、ああ、なるほど生きててよかったってこれか、なんてことを考えてたらいつの間にか寝ていた。


つづく