君は深夜の県道に横たわる首の無い獣骸を見たことがあるか

 橋杭岩の朝日を目指して夜の和歌山最奥を抜ける”Sunrise or Death”ライド、その記録。

 


 

ことの始まりはこの一声

1年半の月日が経ち、念願叶って行ってきました。

橋杭岩で日の出を迎えるということは、当然行程はオールナイトライド
前日如何に睡眠を十分に取るかが成否と生死を分けます。

はい。

 

集合地は下市口駅。昼間の奈良市街なんか走ってられん。

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先に到着していたのは急な誘いに応えて参加してくれた後輩のしみみー@xenocrosserくん。マイバイクは大学の部室に幽閉されているため、急遽先輩から借りたシクロードでの参戦。

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ショッキングピンクがトレードマークのモリビトエクター

集合地のコンビニが今ライド唯一の補給地点。補給食と水をたっぷりチャージして出発!!

 

 

今回のプランナーはコースタイトルに必ず「死」を含むことで定評のあるモリビト。

比較的(あくまで比較的)車通りの多い区間は極力排除してあり、つまり、こういうことです。

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いる??この登り、ほんまにいるやつ??

 

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しみみーくんは極限の軽量化を狙ったウルトラライトパッキング。サドル下は不安定だったので途中からハンドルバーにぐるりん。

 

はい。

 

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序盤のコースは至って簡単、309号線をひたすら南進。借り物バイクで普通に速いしみみーくん。モリビト神に捧げる生贄枠と見込んでたのに序盤から計画の失敗を悟る。

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スタートから標高1100m付近の修験の霊峰まで40km、緩やかに確実に標高を稼ぐ

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天川村を越え、みたらい渓谷のあたりからは車の対向不可な狭路に。同時に路面も悪くなり、いよいよ旅の始まりを感じます。

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岸壁迫る谷筋をゆく

鉛色の狭い曇天を見上げながらゆっくりと確実に標高をあげ、最後の数キロでガガッと登れば…

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到着、行者還トンネル!!

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二十歳の若者に撮らせてはしゃぐ三十路手前のオッサン二人

は置いといて、このトンネル見ての通り明かりもへったくれもありません。遠く向こうに鈍く光る出口が見えるだけ。まさに彼方と此方を隔てる境
実際こちら側には登山車用の駐車場があってそれなりの台数が止まっているけど、この先へ向かう車なんぞ皆無。

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行者も還る霊峰を帝国民が押し通る。

 

さあ日が暮れる。ここからが本番。
600kmブルベも難なく走破する歴戦のランドヌール モリビトを先頭に闇夜の行軍が始まります。

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スタートからゴールまで、一切のローテーション無く引き切ってくれたモリビトさん。作るコースはアレだけど、ひとたび後ろに付けばコレほど頼もしい背中はない。登りでも平地でも一定のパワーをを維持したまま、累積疲労と獲得距離の最適解的速度域でどこまでも淡々と進む。きつめの登りは無理に踏まずモグモグタイムで補給し、下りになっても脚を止めずそのままリニアに高速走行というまさにロングライドのお手本のような走り。
ただし本格的な下りになったらもうダメ弾丸。タイトなコーナーもわけのわからんライン取りで切り込んではキノコターボよろしく加速して視界から消える。曰く、「下りは才能

 

あっという間に100km。ちょうど煌々と光るロードサイドカフェがあったのでピットインして初めての休憩タイム。

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貴重な光源求めて群がる人間3体・虫無数。

いつもはライド後に締めで飲むコーラだけど、すでにこのへんでカフェインとコカインの区別がつかないあたりまで脳にキてたので惜しみなく糖分を投入。頭が寝るなら腸から起こせとパンとおにぎりも多めにもぐもぐ。休憩は15分くらいだったか、脚が固まる前に再スタート。

 

と、走り出して少しのところで不意に立ち止まるモリビト。
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今回の観光ポイントやで

いつかのデスビワイチを思い出す粋なコース設定に涙を禁じえない

 

これ、肉眼の10倍くらい見えてるからね!??!!??

 

ここまでかなりのハイペースで来れたため、途中見つけた新しそうな道の駅で日の出までの時間調整のため仮眠も兼ねた大休憩タイム

 

広い駐車場に車は少なく、屋根あり椅子あり適度な暗さ。仮眠ポイントとしては文句なしの三ツ星。おやすやぁ…と行きたかったけど、何故かここでも眠れない。普段はだいたいどんなところでもしっかりぐっすり寝れるタイプなんだけど、どうもこの日は自律神経がおかしくなってて一向に寝落ちできない。前日も3時間しか寝て無いのでフラフラになっててもおかしくないのに不思議と体力的にはまだ余裕がある。仕方がないので隣で唸る自販機と遠くのゲロゲロを聞きながら目を瞑ってなるべく脳を休めます。

 


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日付が変わる頃に再出発。ここからがメインディッシュ。文明色濃い国道168号線から西に逸れ、いざ和歌山の最奥へ!!

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広い谷間の集落から更に奥に分け入ってすぐ、明らかにそれまでと道の雰囲気が変わる。

暗い、狭い、道が悪い。もちろんそれもある。でも、曲がりなりにもここまで夜の和歌山をキャッキャ言いながら走ってくるような3人だ。こんな道今までもそれこそ山程走ってきた。

 

このときはまだナイトライド独特のハイテンションで軽口を飛ばし合う余裕もあったし、だからアレが唐突に現れたときも、

「うおおおお!!!!」

「うわクッサっ 思いっきり死臭やんけこれ」

「は?こいつ首無いやん」

「あ、やっぱりないですよね!?」

「まってまって写真撮るわ!!映るかな??」

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(ナカユビタテー)パシャ!!

「よしオッケー撮れた!!なんじゃこれほんまに」

 「シシ神さまちゃうか?」

「明け方なったらデイダラボッチくるやんけwww」

 

などと冗談飛ばして通り過ぎ、なお続く暗闇を進む三人。

一通りツッコミ終えて会話が一瞬途切れ、ふと我に返る

 

 

「いや、あれはマジでヤバいやろ…」

 

潰れてるのなら、わかる。目ん玉飛び出てるとか内臓はみ出てるとか、そういう轢死体なら今までも見たことあるし、ああビビったーで済む話。でも、「首から上がない」というのはどう考えてもおかしい。熊ならたぶん内臓を食う。いやそもそもあの捻り切ったような管状の諸々を見るに、たぶん獣の仕業じゃない。獣じゃないなら、人。…人?そういえば血痕もない。てことはここが現場じゃない?どっかで首だけ飛ばしてここで胴だけ置いていった?こんな何もない山道の広くもない路肩で?なんで?なんで???

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滲み出た冷や汗が乾くより早く不意に道が消えた。どうやら旧道に迷い込んだみたい。は?てことは今までのは新道???

 

さらに少し走ると道の両脇に石垣。そして朽ちた廃屋が現れた。屋根が落ち森に還る寸前のものから、割れたトタンとガラスの向こうに微かな人の営みを感じるものまで全く統一感はなく、無秩序に廃れている。

あ、何かおる。出た!犬?白い犬。
幸い鎖に繋がれてる…ことに安堵しようとした時、横からUnchainedな別の犬が飛び出し暗い道の先に消えた何がどうなってる。

 

この場所に関してはフォロワーの有識者ファナテイック遠藤@fsc2a氏が詳細をくれた。

答えがわかったところで混乱は増すばかり。なんなんだここは…

 

先ほどの死臭ともまた違う濃い獣の匂いがその後も断続的に漂う。確実にパーソナルディスタンスに3人以外の何かがいるのを肌で感じる足音と声とうごめく音が聞こえている

 道の険しさも増す。路面は下手なグラベルより悪い落石だらけ剥がれ放題の荒廃した舗装路。きっつい峠を二つ挟んで40km以上、ずっとこんな道が続く。

 不意に右後方の死角から前を走るモリビトに向けて何かが高速で発射された。低く唸る黒い塊。猪だ。

「ぅうぉおおおおおああああああ!!!」

腹の底からありったけ叫ぶ。それ以外打つ手がない。右ペダル後ろ一寸の所まで迫った猪は、そのまま彼を追い抜き暗い森に消えた。

 畳み掛けるカオスに脳の処理が追いつかない。ありえないくらい怖い。一人なら絶対に泣いてる。

でも、それと同時に湧き上がる、なんとも名状しがたい不思議な気持ちも確かにあって。

「あぁ…なんか今、確実に幸せやわ」 


「めっちゃわかる」


 

得難い仲間と共にゆく、真にepicなライドが完成した瞬間だった。

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この日写真に捉えた唯一の生きた鹿(の霊)

 


 

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最後の峠で千切り千切られ、各々順に橋杭岩にたどり着く。

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海の向こうの小さな朝日はそれなりに綺麗だったけど、夜明けを待たずに満ちた心に付け入る隙間はすでになかった。大切なものは ほしいものより先に来た。

 

おしまい


モリビトさんの記事↓