古参のイヤホンマニアでは知らぬ者いない名機、Etymotic ResearchのER-4S。

自分も学生時代に長く愛用していた懐かしの一台なのだが、イヤホン界隈から足を洗っている間に後継機まで発売され、しかもその発売が10年近く前というのだからもうどんな顔をしていいやら。
先日偶然その後継機ER-4SRを聴く機会があり、家に帰って久々に往年のER-4Sを引っ張り出して聴き直し改めてその魅力を再確認したので記録の意味も兼ねてレビューと、4SRとの比較などもまとめておく。
ER-4シリーズの歴史
1984年、Etymotic Researchは、音響研究と補聴器技術を背景にカナル型イヤホンの開発に着手した。
当初から狙っていたのは、装着感や音の派手さではなく、外耳道内での音響再現をいかに正確に制御するかという一点だった。
Etymotic Researchのイヤホンは高精度なバランスド・アーマチュア・ドライバー(BAD)を採用することで知られ、現在ではハイエンドイヤホンでは珍しくない構成だが、当時としてはきわめて先鋭的な選択だった。
1991年に登場したER-4は、カナル型イヤホンの草分け的存在として位置づけられ高い遮音性と、測定基準に基づいた忠実な音再生は、それまでのイヤホン観を大きく変えるものだった。
ER-4Sという分岐点
その後登場したER-4Sは、ER-4シリーズの中でも象徴的なモデル。SはStudioの略とされ、より厳密な基準用途を想定したチューニングが与えられている。技術的な特徴として知られるのが、約100Ωという高めのインピーダンス設定。
これは携帯機器での鳴らしやすさを犠牲にする代わりに、アンプ側の出力特性の影響を受けにくくし、再現性を安定させるため低域の量感よりも輪郭、高域の伸びと情報量が優先されているらしい。

自分がオーディオにハマっていた2010年代にこのER-4シリーズは好き嫌いは別として、イヤホン好きなら一度は聴いておくべきリファレンスとして各所で名前の上がる名機だった。
(あとはUltimate Earsの10proか。懐かしいな。 どちらも当時の価格は3万円を切る(ER-4Sは19,800円だった記憶)ほどだったかが、疑いようなく当時の定番ハイエンド的な扱いだった。)
音質レビュー
ER-4Sの音は自分が知る音響機器の中で最も無機質であり、かつ最も情報量が多い。冷たい音という意味ではなく。音楽的な演出を削ぎ落とした結果、音そのものの構造が前に出てくるという印象。
ざっくり言えば味付けは限りなくゼロで、音の解像度だけが限界まで高いカリッカリにストイックな音だ。

低域:量感より輪郭と速度
ER-4Sの低音は、現代的なイヤホンと比べると明らかに少ない。
沈み込みも控えめで、量感や迫力を求めると物足りなさを感じる。
一方で、立ち上がりは非常に速く、ベースラインやキックのアタックが曖昧にならない。低音が音楽を引っ張ることはないが、リズムの骨格を正確に示す役割は徹底している。
この特性は、他のイヤホンを評価する際の基準として非常にわかりやすい。低音が過剰かどうか、量でなく形で判断できる。
中域:音像が近く、色付けが少ない
高域から中域がER-4Sの核となる部分。
ボーカルや主要楽器が前に出てくるが、厚みを足す方向ではなく、輪郭を強調する方向で定位する。声の艶や温度感を楽しむタイプではなく、発音の癖や録音の質、ミックスのバランスがはっきり見える。
高域:情報量は多いが、派手ではない
ER-4Sの高域は「伸びる」というより「詰まらない」。シンバルや弦の倍音が途中で丸められず、最後まで描写されるので環境や音源によっては刺さると感じることもある。
ただしこれは強調というより、刺さる音まで逃がしていないという印象で、音源として鳴っているものを誤魔化さずにちゃんと耳に刺してくる。これで初期の東京事変のアルバムとか聴いたら耳にめっちゃ悪い。
空間表現と定位
音場は極めて狭く、完全な頭内定位。
左右に大きく広がるタイプではなく、音像が頭の中心寄りに集まる。
音像としては平面的だが、個々の音の定位は極めて明確でどの音がどの位置にあり、どの帯域を占めているかが把握しやすい。
ただ優れたヘッドホンで感じるような三次元的な定位感は皆無で、極めて平面的。立体空間に鳴る音楽ではなく、極限まで精緻な点描画を見ているような気分になる。
ER-4SRとの比較
視聴程度ではあるが、実際に聴いてみたER-4SRは簡単に言えば4Sに低音を増して現代風にしたような音。

点描的で圧倒的な解像度を持つ中高音やカッチリと決まる頭内定位はそのままに、これまでは限界までカリッカリに肉を削いでいた低音部が幾分かふくよかになったような柔らかい音に変わっていて、4Sに比べるとかなり聞きやすい印象を受けた。これなら音楽鑑賞にも普通に使える。
ただ自分の中でのER-4Sのキャラクター像とは少しズレがあるのも事実。触れたらスパッと切れてしまいそうな鋭さに4Sの価値を見出していたものからすれば、その柔らかさが進化ではなく余分な贅肉に見える可能性も大いにあると思う。
専用(?)ヘッドホンアンプ MiniBox-ES
厳密には公式の専用アンプではないのだが、このER-4Sと特に相性のいいポータブルアンプとしてMiniBox-ESというものがあった。

iPod ClassicとDockケーブルで繋げて重ねて使うガレージメーカーのポータブルアンプだが、こいつと合わせたER-4Sがちょうど今回聞いたER-4SRの音に似ていたような記憶がある。
カリッカリのER-4Sの音を適度に膨らませることで、4Sにはなかった余韻のようなものが生まれて、元々の解像度の高さと相まってものすごく聞きやすいいい音だった。
その他
あとはこのER-4S、インピーダンスが100Ωと、カナル型イヤホンとしてはかなり高い。それもあって先のヘッドホンアンプなどが活躍したんだけど、この鳴らしにくさのお陰で据え置きのヘッドホンアンプと繋いでも音が破綻せずさらに良い音で聞けるという特徴がある。
試しにSPL Phonitor SEに繋いで聴いてみたが、これはちょっとすごすぎた。点描画的な音の画素数とキャンバスがデカすぎて目が回る、絶対聞き流せない音になる。ながら聴きとか絶対無理。
ということで、ER-4Sの振り返りレビューでした。
持ってなかったら4SRでいいからとりあえず買ってみることを強くおすすめします。

































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